第74話 静かな帰還と、剣に込めた誓い
王都への買い出しを終え、リディアは蒼月亭へ戻ってきた。
必要な物資は揃い、表向きは何事もない旅だった。
だが――王都には、確かに不穏な空気が漂っていた。
王と王妃の暗殺未遂。
表には出ない不安。
そして、それでも続いていく日常。
守るべき場所へ戻ったリディアは、改めて己の役目を見つめ直す。
「ただいま」
蒼月亭の前に立ち、リディアは静かに言った。
畑の方から、ミレーヌが振り返る。
「おかえり」
その声は、いつもと同じだった。
「どうだった?」
リディアは少しだけ考え、そして笑った。
「楽しかった(^^)」
ミレーヌは安心したように頷いた。
「そりゃよかった」
カイも工具を手にしたまま近づいてくる。
「お疲れ様です、リディアさん」
「頼まれたものは全部あるよ」
背負っていた荷袋を下ろす。
塩、乾物、油、布。
蒼月亭で必要なものが揃っている。
カイは中を見て、嬉しそうに目を輝かせた。
「助かります。本当に」
その顔を見て、リディアは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
(戻ってきた)
そう思った。
守るべき場所へ。
王都は、いつも通り賑わっていた。
市場は人で溢れ、商人は声を張り上げ、兵は巡回している。
だが。
空気が違った。
見えない緊張。
抑え込まれた不安。
誰も口には出さない。
だが誰もが感じている。
王都は、不穏な空気が漂っているのをひしひしと感じていた。
王様王妃の暗殺未遂もあった。
真偽は分からない。
だが警備は増え、兵の目は鋭くなっていた。
何かが動いている。
確実に。
(……)
リディアはその時、改めて思った。
ここに戻ってきてよかった、と。
蒼月亭の広場を見渡す。
カイが水路を調整している。
ミレーヌが布を干している。
遠くでは、レオン達の家の煙突から煙が上がっている。
エルフの森も、静かだ。
平穏だった。
当たり前のようで、当たり前ではない日常。
それを、リディアは知っている。
失ったことがあるから。
守れなかったことがあるから。
リディアは腰の剣に手を置いた。
カイが直した剣。
魔力を流すと、青白く応える感覚がある。
まだ完全ではない。
だが、確かに戻りつつある。
(守れる)
そう思えた。
以前よりも強く。
以前よりも確かに。
ミレーヌが振り返った。
「どうしたんだい?」
「……いいえ」
リディアは小さく首を振る。
「少し、安心しただけ」
ミレーヌは笑った。
「ここは安心できる場所さ」
その言葉は、自然だった。
だがリディアにとっては、重みがあった。
守る価値のある場所。
守るべき人たち。
それが、ここにある。
風が吹いた。
蒼月亭の看板が、静かに揺れる。
リディアはその音を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。
王都は変わり始めている。
いずれ、その波はここにも届くかもしれない。
だが。
それでも。
(今度は)
守る。
必ず。
守り抜く。
リディアは目を開き、いつものように歩き出した。
蒼月亭の日常の中へ。
剣と共に。
誓いと共に。
王都では暗殺未遂という不穏な出来事が起きていました。
その空気を感じながらも、リディアは蒼月亭へ帰還します。
蒼月亭の平穏な日常。
仲間たちの存在。
そして守るべき場所。
過去に守れなかった経験を持つリディアだからこそ、
この場所を守る決意は、より強くなっていきます。
静かな日常の中で、物語は次の波へと向かっていきます。




