第62話 ジャンクの中の宝 ――師の刻印
旅から戻った黎明の風が持ち帰ったのは、衣類や食料だけではなかった。
それは、誰も見向きもしなかったもの。
壊れ、捨てられ、価値を失ったとされたもの。
だが――
それを見た修理屋カイの目だけが、違う光を宿していた。
それは“終わった品”ではなく、“まだ生きている品”だった。
◆ 運び込まれた荷
「これも中に入れていい?」
レオンが背負い袋を床に下ろす。
中から現れたのは――
剣。
盾。
篭手。
胸当て。
短剣。
金具の外れた鎧。
どれも共通していた。
壊れている。
欠けている。
割れている。
歪んでいる。
フィオが笑う。
「重かったんだよ、これ」
レンも肩を回す。
「全部鉄だからな」
カイは呆れた顔をした。
「……何を持って帰ってきたんですか」
セラが少し慌てて言う。
「ちゃんと理由はあるの!」
レオンが頷く。
「武器屋や防具屋を見たんだ」
◆ 違和感
「いい物なのはわかった」
レオンが続ける。
「でも――」
「?」
「イマイチ、ピンとこなかった」
ミレーヌが眉を上げる。
「ピンとこない?」
フィオが頷く。
「強いのはわかる。
出来もいい」
レンが言う。
「でも、“それだけ”だった」
セラがカイを見る。
「蒼月亭で見てきたものと……違ったの」
カイは黙って聞いていた。
◆ 店の外
レオンが続ける。
「それで、店の外に――」
「外?」
「ジャンク品があった」
無造作に積まれた装備。
錆びたもの。
壊れたもの。
誰も買わないもの。
「確かに欠けてたり、割れてたりした」
「でも」
レオンの声が強くなる。
「芯はしっかりしてた」
セラが笑う。
「“直せば一品物になる”って思ったの」
レンが肩をすくめる。
「店主も安くしとくって言うからな」
フィオが笑う。
「買えるだけ買ってきた」
ミレーヌが吹き出した。
「馬鹿だねぇ」
だが――
楽しそうだった。
◆ 修理屋の目
カイは、ゆっくりと一振りの剣を手に取った。
欠けている。
だが――
重さ。
重心。
鉄の質。
指先が止まる。
「……これ」
小さく呟く。
もう一本。
篭手。
盾。
カイの呼吸が変わる。
「……これ、捨てられてたの?」
レオンが答える。
「捨ててはいないよ。ジャンク品」
カイは、信じられないものを見るように言った。
「これ……結構いいものだよ」
レオンが笑う。
「やっぱり」
カイの手が止まる。
そして――
確信した。
「あれ……これ……!」
全員がカイを見る。
カイは静かに言った。
「オヤジさんの商品だ」
◆ 師の痕跡
「えっ!?」
セラが声を上げる。
「カイの師匠の?」
「はい」
カイは剣を撫でた。
「量産品は作りたがらなかったんですが……」
目を閉じる。
「一度だけ、依頼を受けた事があったんです」
思い出していた。
炉の熱。
鉄の匂い。
叩く音。
「その時に作ったものです」
剣を持ち上げる。
「この感じは覚えてます」
全員が黙る。
師の遺したものが――
ここにあった。
◆ 可能性
ミレーヌが口を開く。
「って事はさ」
「?」
「全部直して貰ったら――」
レオンが続ける。
「今よりいい装備品になるんじゃ……」
カイは正直に答えた。
「これだけの数なので、時間はかかります」
そして――
微笑んだ。
「でも」
全員を見る。
「みんなの気に入ったものが出てくるかもしれませんね」
沈黙のあと――
「おお!」
歓声が上がる。
◆ 新しい未来
ミレーヌが笑う。
「武器屋カイになっちゃうね」
カイは苦笑する。
「修理屋のままでいいですよ」
レオンが笑う。
「でも、良い商売になるぞ」
ミレーヌが頷く。
「間違いないね」
リディアが静かに言った。
「……武器は、“選ばれる”もの」
カイは頷いた。
選ばれなかった武器。
だが――
これから選ばれる武器になる。
蒼月亭は、静かに新しい役割を持ち始めていた。
カイが「修理屋」から「再生させる者」へ進化する始まりです。




