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第60話 帰る場所 ――剣が導いた再会

旅に出た者が帰ってくる時。

それは「到着」ではなく、「帰還」と呼ばれる。


それは、そこに“帰る場所”があるからだ。


蒼月亭に集った者たちは、少しずつこの廃村を変えていた。

そして今、その場所に、新たな命の気配が戻ろうとしていた。


それを最初に感じたのは――

境界に生きる、影の剣士だった。

◆ 畑の昼


柔らかな陽射しが、畑を照らしていた。


整えられた畝の間で、カイは鍬を動かしている。

その隣では、ミレーヌが雑草を抜きながら、腰を伸ばした。


「いい出来だねぇ」


土を見下ろしながら、満足そうに言う。


「根もちゃんと張ってる。

この分なら、ちゃんと育つよ」


カイは少し嬉しそうに頷いた。


「最初はどうなるかと思いましたけど……」


「何でも最初はそんなもんさ」


ミレーヌは空を見上げる。


風が穏やかに流れていた。


しばらくして、ぽつりと呟く。


「そろそろ帰って来るかな? あいつら」


カイも手を止め、遠くの山道を見た。


「多分……そろそろだと思うけど……」


ヴァルディアの街へ向かったレオンたち。

荷物を取りに行くだけとはいえ、往復には日数がかかる。


無事でいるとは信じている。

だが、帰ってくるまでは落ち着かない。


その時だった。


◆ 気配


「……魔物だ」


低い声。


振り向くと、リディアが立っていた。


いつの間に来ていたのか、風のように静かだった。


「えっ!?」


ミレーヌが顔を上げる。


リディアの視線は、森の奥へと向けられている。


「数は多くない。だが……近い」


腰の剣に手をかける。


青白い光はまだ出ていない。

だが、刃は確実に“目覚めている”。


「私が行ってくる」


迷いのない声。


カイが思わず言う。


「大丈夫ですか?」


リディアは振り返り、小さく笑った。


「カイの直してくれた剣があれば、大丈夫だ」


その言葉は、信頼そのものだった。


次の瞬間には、もう森へと向かっていた。


◆ 森の中


風を切り、進む。


魔物の気配は確かにある。


だが――


金属音。


誰かが戦っている。


リディアは速度を上げた。


木々の隙間を抜け、視界が開ける。


そこにいたのは――


「はぁっ!」


レオンの剣が魔物を弾く。


フィオの矢が飛び、正確に喉を射抜く。


レンが背後を取り、急所を突く。


セラが魔力を集め、風の刃を放つ。


「……」


リディアは、一瞬だけ立ち止まった。


そして、口元がわずかに緩む。


前へ出た。


「おかえり!」


一閃。


青白い光が走る。


魔物の胴が、静かに断たれた。


レオンが振り向く。


「リディア……?」


驚きと、信じられないという表情。


リディアは静かに答えた。


「魔物がいるから来てみたら……お前たちだった」


一瞬の沈黙。


そして、レオンが笑った。


「ただいま、って言ってもいいかな?」


リディアも、小さく頷いた。


「ああ。――おかえり」


◆ 帰還


魔物を撃退し、森を抜ける。


廃村が見えてきた。


畑の横で、ミレーヌとカイが立っている。


そして、その少し後ろに――


アリア。


エルフの少女が、嬉しそうに手を振っていた。


「おかえり~!」


その声に、全員の顔が緩む。


レオンたちは歩みを速めた。


そして。


「ただいま」


その一言。


それだけで十分だった。


ミレーヌは腕を組み、にやりと笑う。


「遅かったじゃないか」


カイも深く頭を下げる。


「おかえりなさい」


レオンは村を見渡した。


畑。

井戸。

蒼月亭。

そして――自分たちの家。


「帰ってきたな……」


フィオが小さく言う。


セラも静かに頷いた。


ここは、もう拠点ではない。


「家」だった。


◆ 新しい日常の続き


荷物を下ろし、自分たちの家へと向かう。


修理された扉。

整えられた床。


すべてが待っていた。


リディアはその後ろ姿を見ながら、静かに剣を鞘へ戻した。


青白い光は、もう消えている。


だが、そこにあるのは確かな力だった。


守る場所がある剣は、強い。


そして、この場所は――


守る価値がある。

この回は「帰還」。


戦いではなく、“帰る場所があること”の意味が描かれた回です。


リディアの剣は、ただ強くなったのではありません。

守る対象が明確になったことで、真価を発揮し始めています。


そしてレオンたち《黎明の風》もまた、

冒険者から「この村の住人」へと変わりました。


蒼月亭は、もはや宿ではありません。


それは、人が帰ってくる場所――

本当の意味での“拠点”になり始めているのです。

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