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第二章 第七十六話 初運用

完成した道具は、実際に使って初めて本当の価値がわかります。

だから職人達は、作った後こそ真剣になるのでした。

「それじゃ、行ってくるよ」

朝。

蒼月亭前には、新型荷車が停まっていた。


完成したばかりの“紅陽式荷車 初号車”。

荷台には工具。

木材。

補修道具。

さらに数人の大工職人達まで乗り込んでいる。


「本当に乗るんだな……」

レオンが少し呆れた顔をする。


「現地見ないと増築できねぇからな」

職人の男が笑った。


今回の目的は二つ。

一つは、荷車の長距離試験。

そしてもう一つ。

川辺宿の増築相談だった。


「最近、完全に手狭だからねぇ」

ミレーヌが腕を組む。


「馬小屋も足りないし、荷置き場も必要だろ?」

職人達も既に乗り気だった。


橋を渡る商隊は増えている。

つまり仕事になる。


「資金は私も出すよ」

ミレーヌが普通に言う。


「必要なもんは作らないとねぇ」

その言葉に、職人達も頷いた。

完全に話が動き始めている。


その横で。

カイは最後の確認をしていた。

「固定具問題なし」

「車輪軸問題なし」

「防御板固定確認」


完全に出発前点検だった。

「お前、嬉しそうだな」


レンが笑う。

「……そう見えますか?」

「見える」


珍しく否定しなかった。

やがて準備も終わり、一行は出発する。

メンバーは、

- カイ

- リディア

- レン

- 大工職人達

だった。


ルナは行こうとして止められた。

「食費が増える」

「ひどいにゃ!?」


珍しくミレーヌが即答だった。

笑いが起きる。


「いってらっしゃーい!」

ルミア達に見送られながら、荷車はゆっくりと紅陽を出発した。

⸻

橋を越え。

街道を進む。


以前より、明らかに乗り心地が安定していた。

「おぉ……」


職人の一人が感心する。

「本当に揺れ少ねぇな」


「荷崩れも全然ないぞ」

荷台側もかなり安定している。


カイはその反応を聞きながら、小さくメモを書いていた。

「……前輪側は問題なし」

「後輪側の沈み込みも軽減」


完全に研究だった。

その横で、リディアが周囲を警戒している。


「道も少し踏み固められてきたわね」

以前より通行量が増えている。


橋の効果は確実に出始めていた。

やがて夕方。


以前も使った野営地へ到着する。

「今日はここだな」


荷車を停め、一行は準備を始める。

そこで早速、防御板の試験が始まった。


「これ、本当にすぐ外れるな」

職人の男が感心する。


取り外した防御板を並べる。

すると簡単な壁が出来上がった。


「おぉ……」

「野営向きだなこれ」

「馬囲えるぞ」


評価はかなり高い。

さらに。


「押してみるか」

レンが荷車へ手をかける。

数人で押すと、荷車は問題なく動いた。


「軽いな」

「普通の荷車より全然マシだ」

「これなら馬が駄目でも何とかなる」


リディアは静かに頷いた。

かなり実戦的だった。


その夜。

焚き火を囲みながら、職人達が話している。

「ここまで本格的になるとはなぁ」

「最初は変な修理屋だと思ってた」

「今でも変だろ」


笑いが起きる。

その横で、カイは荷車を見ていた。


まだ改良点はある。

だが確実に形になり始めている。


その時。

「どうだい?」

リディアが隣へ座る。


「……まだ改良できます」

「聞いてない」

即答だった。


少しだけ沈黙。

そして。

「でも、悪くないです」

カイは静かに言った。


リディアは小さく笑う。

「なら上出来ね」

夜は静かだった。

魔物も来ない。


以前より人の流れが増えたせいか、この辺りも少し落ち着き始めている。

防御板の内側で焚き火が揺れる。

それは以前の野営より、ずっと安心感のある光景だった。


そして翌朝。

朝食を終えた一行は再び出発する。


荷車は問題なく進み続け――

昼前。


川辺宿が見えてきた。

「おぉ、着いたか!」


最初に気付いたのはリナだった。

荷車を見るなり、目を丸くする。


「なにこれ!?」


その反応に、職人達が少し誇らしげに笑った。

紅陽式荷車。

その初運用は、かなり順調だった。

今回は“紅陽式荷車 初運用”回でした。

長距離試験を兼ねて、川辺宿増築計画も動き始めています。

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