第二章 第七十四話 動く防壁
道具は、一つの用途だけで終わるとは限りません。
生き残るための工夫は、時に戦い方そのものを変えていくのでした。
翌日。
蒼月亭裏庭には、朝から木材と鉄板が並んでいた。
「これ全部使うのか……」
レオンが少し呆れたように呟く。
「まだ足りません」
カイは真顔だった。
完全に集中モードに入っている。
その横では、木工職人達が荷車の骨組みを組み始めていた。
「荷台は少し長めだな」
「人も寝れるようにするので」
「なるほど」
話しながら、どんどん形が出来ていく。
以前の改修型とは違う。
最初から“用途”を考えて作っていた。
その頃。
ミレーヌ達は少し離れた場所で様子を見ている。
「本当に工房になっちゃったねぇ」
「楽しそうですよね」
ルミアが笑う。
実際、職人達の空気はかなり熱かった。
橋が出来てから仕事が増えている。
つまり、“作る意味”がある。
それが職人達にとって大きかった。
その時。
「カイ」
リディアが荷車横へ来る。
「昨日言ってた防御板だけど」
「はい」
「固定式じゃなくて、外せる方がいい」
カイが顔を上げる。
リディアは荷車側面を軽く叩いた。
「野営時は盾になる」
「……なるほど」
「あと、馬を守る壁にも使える」
その場の空気が少し変わる。
以前の山賊戦。
荷車を横へ滑らせ、盾代わりにした。
あの経験が残っていた。
「確かに……」
レオンも頷く。
「囲う形にすれば、馬を矢から守れるな」
「人も守れる」
リディアは淡々と言う。
「荷物だけ守っても意味ないから」
完全に実戦視点だった。
カイは少し考え込み――
すぐ地面へ図を書き始める。
「なら、この部分を差し込み式にします」
「普段は固定」
「必要時だけ取り外せるように」
職人達も覗き込む。
「ほぉ……」
「悪くねぇな」
「盾として持てる重さにするなら?」
その問いに、カイは即答した。
「軽量化します」
「鉄板だけだと重いので、木材と組み合わせます」
「軽く?」
レオンが聞き返す。
カイは頷いた。
「最悪、人でも押して動かせるくらいには」
その瞬間。
リディアの目が少し細くなる。
「……それ、いいわね」
「え?」
「狭い場所でも動かせる」
「護衛にも使える」
「突破にも向く」
淡々としているが、かなり実戦的だった。
「完全に移動防壁だな……」
レオンが苦笑する。
だが実際、理にかなっている。
矢除け。
野営防御。
馬防御。
怪我人輸送。
長距離移動。
全部を兼ねられる。
その時。
「にゃ」
またルナが荷台へ乗っていた。
「今度は何だ」
リディアが即ツッコむ。
ルナは荷台の端へ座りながら言う。
「これ、中に食料いっぱい積めるにゃ?」
「そこかい」
ミレーヌが笑う。
だがカイは真面目に考える。
「保存棚を付けてもいいかもしれません」
「水樽固定も必要ですね」
「長距離なら絶対いる」
話がさらに広がっていく。
商人達も興味津々だった。
「野営楽になりそうだな……」
「護衛依頼減るかもしれん」
「いや逆に長距離増えるだろ」
既に“次の流れ”を見始めている。
その中心で。
カイは黙々と図を書き続けていた。
修理屋だった少年は今、
ただ壊れた物を直すだけではなく――
“人の流れそのもの”を変える道具を作り始めていた。
今回は“動く防壁”構想回でした。
防御板が「取り外せる盾」として発展し始めています。




