第二章 第七十三話 紅陽式荷車
真似をするだけでは、いずれ限界が来ます。
だから人は、“自分達に合った形”を考え始めるのでした。
「……つまり」
レオンが腕を組む。
「もう普通の荷車じゃ足りないって事か?」
蒼月亭裏庭。
木材。
工具。
荷車。
職人達。
完全に工房みたいになっていた。
その中心で、カイは荷車を見ながら考え込んでいる。
「今のは、既存の荷車を改修した形です」
「ですが――」
荷台を軽く叩く。
「橋向こうまで行くと、用途が変わってきます」
「用途?」
木工職人の一人が聞き返す。
カイは頷いた。
「長距離輸送」
「悪路」
「野営」
「魔物対策」
「あと、人員輸送もですね」
その言葉に、以前同行した商人達が頷く。
「確かに普通の荷車だと揺れるんだよな」
「荷崩れも多いしな」
「野盗避けも欲しい」
「雨除けもあると助かる」
次々と要望が飛び始める。
「要求増えてきたな……」
レオンが苦笑する。
だがカイは真面目だった。
「だから、一から作った方がいいと思います」
その場が少し静かになる。
「一から?」
ミレーヌが聞き返す。
「はい」
カイは頷いた。
「大きさ」
「構造」
「積載量」
「防御板」
「全部、紅陽向けに作り直したいです」
その言葉に、職人達の目の色が少し変わる。
単なる修理ではない。
“新しく作る”。
それは職人達にとっても面白い話だった。
「ほぉ……」
木工職人の男が荷車を見回す。
「つまり、“紅陽式”って事か?」
「……そうなります」
カイは少し考えてから頷いた。
その瞬間。
「面白ぇじゃねぇか!」
「やろうぜ!」
「だったら車輪も変えた方がいい!」
「橋向こうの悪路なら幅広い方が安定する!」
一気に空気が熱を帯びる。
完全に職人達のスイッチが入った。
「楽しそうだねぇ」
ミレーヌが笑う。
「目が完全に職人です」
ルミアも少し驚いていた。
その頃には、蒼月亭裏庭へ見物人まで増えていた。
商人。
住民。
荷運び。
みんな興味津々で覗いている。
「新型作るのか?」
「また変なの始まったな」
「でもあの荷車便利だったぞ」
噂はかなり広がっていた。
その中で、カイは地面へ簡単な図を書き始める。
「まず荷台を少し広くします」
「あと重心を下げたいです」
「防御板は取り外し式に」
「それなら用途で変えられるので」
「なるほどな」
職人達も真剣に聞いている。
そこへ。
「にゃ」
いつの間にかルナが荷台へ乗っていた。
「お前何してる」
リディアが即ツッコむ。
「乗り心地確認にゃ」
「まだ作ってないだろ」
「先行確認にゃ」
意味不明だった。
だが、その時。
ルナは荷台を見回しながら言う。
「もっと中広いと寝やすいにゃ」
その一言で、何人かが止まる。
「……あ」
「確かに長距離なら休憩できる方がいいな」
「怪我人も運べるか」
「荷物だけじゃないのか」
発想が少し変わる。
カイも小さく頷いた。
「……多用途型ですね」
「それもありかもしれません」
レオンが苦笑する。
「食いながら適当言ってるようで、たまに役立つな」
「えへんにゃ」
全く褒めてない。
その頃。
蒼月亭前では、商人達が既に盛り上がっていた。
「完成したら買いたいな」
「護衛付き輸送とか出来そうだ」
「野営も楽になりそうだな」
期待は想像以上に大きい。
橋が出来て。
街道が繋がって。
流れが変わった。
そして今。
その流れに合わせるように、紅陽の技術もまた少しずつ形を変え始めていた。
今回は“紅陽オリジナル荷車構想”回でした。
単なる修理ではなく、“紅陽向け輸送車両”として設計が始まっています。




