第二章 第七十二話 荷車工房
人が増えれば、必要な物も増えていきます。
そして必要とされれば、技術は少しずつ形になっていくのでした。
昼過ぎ。
蒼月亭の裏庭には、妙な人だかりが出来ていた。
「これが例の荷車か……」
「防御板付きってやつ?」
「思ったより頑丈そうだな」
商人達が興味津々で荷車を囲んでいる。
その中心では、カイが真面目な顔で説明していた。
「こちらが補強部分です」
「悪路対策として車輪軸を少し調整しています」
「あと、この固定具で荷崩れを防ぎます」
完全に職人だった。
「難しい話はわからんが、使いやすそうだな」
商人の一人が荷台を軽く叩く。
「実際、長距離でかなり楽だったぞ」
以前、一緒に野営した商人も頷いていた。
「揺れ少ないんだよな」
「あと荷物がズレにくい」
「橋向こうの道でも問題なかった」
評価はかなり良い。
その横で、レオンが腕を組む。
「本当に売れそうだな……」
「まだ試作です」
カイは即答する。
「改良点ありますし」
「そこまで言うなら完成品いつになるんだよ」
「……もう少しかかります」
珍しく少し困った顔だった。
だが、その時。
「なら、作りながら改良すりゃいいだろ」
後ろから声が飛ぶ。
振り向くと、木工職人の男が立っていた。
以前、紅陽へ移住してきた職人だ。
「荷台部分なら手伝えるぞ」
「俺も車輪側見れる」
別の男も口を開く。
カイが少し驚いた顔をする。
「……いいんですか?」
「仕事になるなら大歓迎だ」
男達は笑った。
橋が出来てから、紅陽には少しずつ人が増えている。
その中には、職人達もいた。
「街になってきたなぁ……」
ミレーヌが少し離れた場所で呟く。
その隣では、ルミアが外の様子を見ていた。
「最近、毎日人増えてますよね」
「橋が出来たからねぇ」
ミレーヌは頷く。
「流れが変わったんだよ」
以前の紅陽は、行き止まりに近かった。
だが今は違う。
橋がある。
川辺宿がある。
大街道へ繋がっている。
つまり――
“通れる”。
その意味は大きかった。
その頃。
蒼月亭前では、新しく露店まで増え始めていた。
焼き魚。
乾燥果物。
旅道具。
簡易修理。
以前なら考えられなかった光景だ。
「……賑やかにゃ」
ルナが串焼きを食べながら呟く。
「お前また食ってるのか」
リディアが即ツッコむ。
「市場確認にゃ」
「確認の量じゃないだろ」
既に三本目だった。
その時。
「女将!」
また商人が声をかけてくる。
「川辺宿、増築予定あるか?」
「馬小屋広げたいんだが」
「あと荷物預けられる場所欲しい」
ミレーヌは思わず笑った。
「次から次へと来るねぇ」
だが実際、必要になってきている。
物流が増えれば、
- 馬
- 荷物
- 人
全部増える。
つまり設備も必要になる。
紅陽は今、“村”から“街”へ変わり始めていた。
その中心で。
カイは木工職人達と荷車を囲んでいた。
「ここを鉄板で補強したいんですが……」
「なら木組み変えた方がいい」
「こっちなら負荷逃がせるぞ」
話がどんどん進んでいく。
レオンがその様子を見ながら苦笑した。
「もう工房だな」
確かにそうだった。
修理屋カイ。
そう呼ばれていた少年は今、
少しずつ“作る側”へ進み始めていた。
今回は“荷車工房化”回でした。
物流が増えたことで、紅陽にも職人や商人が集まり始めています。




