第二章 第七十話 紅陽へ
旅が終わる時、人はようやく“帰ってきた”と実感します。
それは場所だけではなく、待っている人がいるからかもしれません。
翌朝。
最後の野営地は、朝から賑やかだった。
焚き火。
荷物整理。
朝食準備。
人数が多い分、いつもの野営より慌ただしい。
「パン焼けたよー!」
「こっちスープできました!」
ルミアとカリナが朝から動き回っている。
ルナは既に食べていた。
「早いなお前」
リディアが呆れる。
「朝ごはんは戦争にゃ」
意味不明だった。
ミレーヌはそんな様子を見ながら、小さく笑う。
「完全に遠征帰りだねぇ」
カイも荷車を確認しながら頷いた。
長距離移動。
悪路。
大街道。
野営。
かなり色々試せた。
「車輪は問題なし」
「固定具も大丈夫そうですね」
「ただ、後部側の負荷分散はもう少し改良できそうです」
もう完全に仕事モードだった。
「旅の感想それかい」
ミレーヌが苦笑する。
だが今回の旅で、荷車の実用性はかなり確認できた。
防壁。
長距離輸送。
荷崩れ防止。
乗り心地。
全部、大きな収穫だった。
やがて朝食も終わり、一行は紅陽へ向けて出発する。
街道を抜け。
橋を越え。
見慣れた景色が近づいてくる。
そして昼頃。
紅陽の門が見えた。
「おー!」
「帰ってきた!」
門前には、既に住民達の姿もある。
「女将、お帰りなさい!」
「カイさんも!」
「無事だったか!」
次々と声が飛ぶ。
ミレーヌは軽く手を振った。
「ただいま」
その一言だけで、空気が少し柔らかくなる。
リディアも周囲を見回した。
石畳。
蒼月亭。
人の流れ。
もうここは、完全に“自分達の街”だった。
「帰ってきたねぇ」
ミレーヌがぽつりと言う。
カイも小さく頷く。
「……ですね」
オルフェンは始まりの街。
けれど今、帰ってきたと思える場所はここだった。
「たまには旅も悪くないねぇ」
ミレーヌが笑う。
「また行くにゃ?」
ルナが即反応する。
「お前は元気だねぇ……」
笑いが起きる。
荷車はそのまま蒼月亭前へ入っていく。
今回の遠征で得たものは多かった。
大街道。
物流。
商人達の流れ。
そして何より――
荷車の長距離運用。
カイは荷台を軽く叩いた。
「これで、一度完成品として作れそうです」
「完成するのかい?」
「まだ改良は必要ですが」
そう言いながらも、カイは少し嬉しそうだった。
試作では終わらない。
ちゃんと“使える技術”になり始めている。
ミレーヌはそんなカイを見て笑う。
「ほんと、とんでもない修理屋だねぇ」
紅陽には、今日も人が流れている。
橋を越え。
宿へ集まり。
また次の場所へ向かう。
その流れの中で、紅陽もまた少しずつ大きくなり始めていた。
今回は“紅陽帰還”回でした。
橋の向こう側への遠征は、物流・人流・荷車技術など、多くの収穫を持ち帰る旅になりました。




