第二章 第六十九話 帰る場所
旅の終わりが近づくと、人は少し安心します。
そして“帰る場所”があるということを、改めて実感するのでした。
夕暮れ。
オルフェンを出たミレーヌ達は、大街道を紅陽方面へ進んでいた。
荷車には大量の荷。
香辛料。
干し肉。
乾燥魚。
保存食。
オルフェンで仕入れた物資がしっかり積まれている。
「結構買ったねぇ」
ミレーヌが荷台を見る。
「しばらく困りませんね」
カイが固定具を確認しながら頷く。
夕陽が街道を赤く染めていた。
大街道だけあって、帰路も人通りは多い。
商隊。
旅人。
護衛。
様々な人が、それぞれの場所へ向かっている。
ミレーヌは空を見上げながら言った。
「今日はこのまま最後の野営しようか?」
「もう少し進めば紅陽近いですけど」
リディアが周囲を見る。
「せっかくだしねぇ」
ミレーヌは笑った。
「旅の締めってやつさ」
その時。
ルナがぴくりと耳を動かした。
「じゃあ先に行ってくるにゃ」
「ん?」
「紅陽に知らせてくるにゃー!」
止める間もなく、森へ飛び込んでいく。
「早いな……」
カイが苦笑する。
リディアも小さく息を吐いた。
「……帰ってくるのかな」
「どうでしょう?」
カイも少し不安そうだった。
だがルナなので、多分大丈夫だろう。
多分。
そのまましばらく進み続ける。
やがて空も暗くなり始めた頃。
ミレーヌが周囲を見回した。
「この辺で野営しようか」
開けた場所。
水場も近い。
荷車を止めるには十分だった。
カイが荷車固定を始める。
リディアは周囲確認。
ミレーヌは焚き火準備。
完全に慣れた動きだった。
その時――
「お帰り~!!」
遠くから声が響いた。
「ん?」
全員が顔を上げる。
次の瞬間。
街道の向こうから、大人数が走ってきた。
「ミレーヌさん!」
「カイ!」
「お帰りなさい!」
レオン。
レン。
フィオ。
セラ。
アリア。
セリナ。
ルミア。
カリナ。
そしてダリウスまでいる。
「……何その人数」
ミレーヌが呆れたように笑う。
ルナが得意げに胸を張った。
「呼んできたにゃ!」
「絶対そうだと思ったよ……」
リディアが額を押さえる。
次々と荷車へ集まってくる仲間達。
かなり賑やかだった。
「蒼月亭どうしたのさ?」
ミレーヌが聞く。
するとルミアが笑う。
「みんなで全部片付けてきましたよ」
「今日は早めに閉めたんです」
カリナも頷く。
「ミレーヌさんの料理が食べたくて」
その言葉に、ミレーヌは吹き出した。
「結局それかい」
「当然にゃ!」
ルナが元気よく言う。
完全に宴会空気だった。
荷車を囲む。
焚き火を増やす。
鍋を並べる。
人が多い分、笑い声も大きい。
「これだけいると野営って感じしないな」
レオンが笑う。
「もうキャンプにゃ」
ルナが肉を焼いていた。
セラとアリアは鍋準備。
フィオ達は荷物整理。
ダリウスは周囲確認。
自然と役割が出来ていく。
ミレーヌはそんな光景を見ながら、小さく笑った。
「みんなで野営も楽しいねぇ」
紅陽を出て。
橋を渡り。
商人達と出会い。
大街道へ出て。
オルフェンへ戻った。
そして今。
こうしてまた、仲間達と火を囲んでいる。
焚き火が揺れる。
笑い声が響く。
その夜は、とても賑やかで、暖かな夜だった。
今回は“帰還前最後の野営”回でした。
旅を終え、最後はやはり“帰る場所”へ繋がっていきます。




