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第二章 第六十八話 元蒼月亭

街は、人が居なくなっても止まりません。

だからこそ、久しぶりに戻ると少し不思議な気持ちになるのでした。

オルフェンの街は、以前とほとんど変わっていなかった。

人通り。

露店。

呼び込み。

荷車の音。

大街道へ繋がる商業都市らしい活気が、今日も街全体に溢れている。

「懐かしいねぇ」

ミレーヌが周囲を見回す。

「人多いにゃ……」

ルナは少しきょろきょろしていた。

紅陽とは違う。

ここは“流れの中心”だ。

商人も旅人も、とにかく多い。

その中を歩きながら、ミレーヌ達は自然とある場所へ向かっていた。

そして――

「あぁ……」

ミレーヌが小さく声を漏らす。

そこには、新しい宿屋が建っていた。

以前、蒼月亭があった場所。

焼け落ちた跡地。

今は綺麗に建て直され、別の宿として営業している。

出入りする客も多い。

「ちゃんと宿になってるねぇ」

ミレーヌが少し笑った。

「この立地だと、やっぱり宿屋になりますね」

カイも建物を見る。

大街道へ近い。

人通りも多い。

確かに、宿としてはかなり良い場所だった。

リディアは静かに建物を見上げる。

ここで、自分は剣の修理を頼んだ。

あの日。

修理屋カイへ。

そして全部が始まった。

「……不思議ですね」

リディアが小さく呟く。

「ん?」

「もう別の場所なのに、ちゃんと覚えてる」

ミレーヌは少しだけ目を細めた。

懐かしい。

けれど少し寂しい。

そんな感覚だった。

だが同時に、不思議と嫌ではなかった。

街は流れ続ける。

それは宿屋も同じだ。

「さて」

ミレーヌが手を叩く。

「しんみりしてても仕方ないねぇ」

いつもの声だった。

「昔なじみの店回って、買い物して帰ろうか」

その言葉に、空気も少し軽くなる。

最初に向かったのは香辛料屋だった。

扉を開けた瞬間。

店主が目を丸くする。

「……おぉ!?」

「久しぶりだねぇ」

ミレーヌが笑う。

「生きてたのか!」

「勝手に殺すんじゃないよ」

店内に笑いが広がる。

香辛料。

乾燥香草。

保存用の塩。

紅陽ではまだ手に入りにくい物も多い。

ミレーヌは手慣れた様子で品を選んでいく。

「相変わらず見る目いいな」

「長いからねぇ」

次は肉屋。

魚屋。

パン屋。

どこへ行っても、

「蒼月亭の女将!?」

と驚かれた。

そして少し笑われる。

「今どこで店やってるんだ?」

「辺境さ」

「また変な場所行ったなぁ……」

そんな会話をしながら、荷車には少しずつ荷が増えていく。

香辛料。

干し肉。

乾燥魚。

保存パン。

紅陽への“土産”だった。

カイはその様子を静かに見ていた。

ミレーヌは、この街でもちゃんと繋がっている。

長年積み重ねたものがある。

「……すごいですね」

「ん?」

「みんなミレーヌさん覚えてる」

ミレーヌは少し笑う。

「長く店やってるとねぇ」

それだけだった。

だが、その言葉には確かな積み重ねがあった。

やがて夕方。

買い物も終わり、荷車もかなり埋まっている。

ミレーヌは満足そうに頷いた。

「よし」

「帰るか」

その言葉に、カイ達も頷く。

オルフェンは始まりの街。

けれど今、自分達が帰る場所は別にある。

紅陽。

蒼月亭。

仲間達の待つ場所。

ミレーヌ達は、夕暮れのオルフェンを後にした。

今回は“元蒼月亭跡とオルフェン散策”回でした。

始まりの街へ戻ったことで、今の紅陽との違いも改めて見えてきています。

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