第二章 第六十七話 オルフェン
人には、“始まりの場所”というものがあります。
そこへ戻る時、人は少しだけ昔の自分を思い出すのでした。
朝。
野営地では、既に商隊達が出発準備を始めていた。
馬具確認。
荷締め。
焚き火の始末。
旅慣れた動きだった。
ミレーヌ達も簡単な朝食を済ませていく。
昨夜の残りスープ。
硬パン。
焼いた肉。
「今日も動くにゃー」
ルナは朝から元気だった。
「お前ほんと体力あるねぇ」
ミレーヌが苦笑する。
その頃には、商人達も次々と荷車へ乗り始めていた。
「じゃあな、女将!」
「今度紅陽行くからな!」
「蒼月亭寄らせてもらうぞ!」
そんな声が飛んでくる。
ミレーヌも軽く手を振った。
「待ってるよ」
カイも頭を下げる。
短い付き合いだった。
けれど、物流路の縁というのは案外そんなものだ。
そして商隊達は、それぞれの道へ散っていく。
ミレーヌ達もまた、オルフェン方面へ進み始めた。
大街道は広い。
人通りも多い。
荷馬車。
護衛。
行商人。
今まで通ってきた道とは、明らかに規模が違う。
「やっぱり大街道は違うねぇ」
ミレーヌが周囲を見ながら言う。
「物流の中心ですから」
カイが答える。
紅陽の流れはまだ小さい。
だが確実に、この大きな流れへ繋がり始めていた。
しばらく進み続けた頃。
リディアが前方を見て、小さく呟く。
「……見えてきた」
丘を越えた先。
遠くに街の輪郭が見える。
石壁。
屋根。
煙。
見慣れた景色だった。
「オルフェンか」
ミレーヌが小さく笑う。
懐かしかった。
ここでカイと出会った。
蒼月亭を経営していた頃。
酒場の一角を使い、
“修理屋カイ”
を始めた場所。
最初は本当に小さな修理屋だった。
壊れた道具。
剣や盾。
鍋やイス。
そんなものばかり直していた。
そして――
リディアが現れた。
剣の修理依頼。
あの時から、全部が少しずつ動き始めた。
だが同時に。
クローディア家の襲撃もあった。
蒼月亭は焼かれた。
そしてミレーヌ達は、ダリウスを加えた四人で廃村へ向かった。
今の紅陽へ繋がる、始まりだった。
「また来ることになるとはねぇ」
ミレーヌが少し目を細める。
カイも街を見ていた。
「あの頃は、こんなことになると思ってませんでした」
「修理屋だったもんねぇ」
「今も修理屋です」
即答だった。
リディアが少し笑う。
「変わってないな」
その横で、ルナは街を見上げていた。
「大きい街にゃー」
「紅陽よりはねぇ」
だが今のミレーヌ達には、もう“帰る場所”がある。
オルフェンは始まりの街。
そして紅陽は、自分達で作った街だった。
「前の蒼月亭、どうなってるんでしょうか?」
カイがぽつりと聞く。
ミレーヌは肩をすくめた。
「まぁ、誰か別の店やってるんじゃないかねぇ」
それは少し寂しくもあり、少し安心でもあった。
店というものは、誰かが居なくなっても街の中で回り続ける。
それもまた、街の流れだった。
やがて。
一行はオルフェンの門へ辿り着く。
懐かしい街。
始まりの場所。
ミレーヌ達は、その中へ静かに入っていった。
今回は“オルフェン到着”回でした。
今の紅陽へ繋がる“始まりの街”へ、ミレーヌ達は再び戻ってきました。




