第二章 第六十六話 大街道
細い道を進み続けると、やがて大きな流れへ辿り着くことがあります。
それは人も、物流も同じでした。
朝。
静かな野営地で目を覚ましたミレーヌ達は、簡単な朝食を済ませていた。
昨夜の残りスープ。
焼いた魚。
硬パン。
旅慣れた簡素な食事だ。
「今日はどこまで行けるかねぇ」
ミレーヌが地図代わりの板を見ながら呟く。
「道幅は少しずつ広くなってます」
カイが答える。
確かに昨日より轍が増えていた。
人流も多い。
この先に大きな流れがあるのは、もう明らかだった。
やがて荷車が再び動き出す。
森道。
川沿い。
少しずつ広がる道。
そして――
昼前。
突然、景色が開けた。
「……おぉ」
ミレーヌが目を丸くする。
そこには、大きな街道が広がっていた。
幅広い道。
大量の轍。
行き交う荷馬車。
護衛付き商隊。
徒歩の旅人。
今までとは明らかに規模が違う。
「大街道ですね」
リディアが静かに呟く。
道は左右へ伸びていた。
分岐標。
右――アルヴェリア王国方面。
左――オルフェン方面。
カイが思わず標識を見る。
「……オルフェン」
ミレーヌも少し懐かしそうに目を細めた。
「行くのかい?」
リディアが聞く。
ミレーヌは少し考え、
「じゃあ、そっち回って帰ろうかねぇ」
と笑った。
オルフェン。
かつて蒼月亭があった街。
カイと出会った場所。
リディアとも合流した街。
今となっては、少し遠い“始まりの場所”だった。
その頃にも、次々と商隊が通り過ぎていく。
「護衛多いですね」
カイが周囲を見る。
「大街道だからな」
リディアが答える。
「人も多い分、狙う連中もいる」
大型商隊。
武装護衛。
馬車列。
その中で。
ミレーヌ達の荷車はかなり小規模だった。
ミレーヌが笑う。
「私たち、なんかこじんまりとしてるねぇ」
「荷車一台だけですし」
「でも強いにゃ」
ルナが胸を張る。
その直後。
また森へ飛び込んでいった。
「狩ってくるにゃー!」
「お前ほんと元気だな……」
リディアが呆れる。
そして昼頃。
ルナは小動物を抱えて戻ってきた。
「今日はこれにゃ」
「毎回ちゃんと獲ってくるのすごいねぇ」
ミレーヌが苦笑する。
街道脇で火を起こし、肉を焼く。
塩を振るだけ。
だが香ばしい匂いが広がる。
大街道を眺めながらの昼食だった。
「流れすごいねぇ」
ミレーヌが街道を見る。
紅陽とは比べ物にならない。
だが、その流れへ確かに紅陽も繋がり始めている。
それが少し嬉しかった。
そして夕方。
次の野営地へ到着する。
今日は商隊が一つだけいた。
荷車を止めようとした時。
向こうの商人が目を丸くした。
「……あれ?」
「この前の女将か?」
ミレーヌが吹き出す。
「また会ったねぇ」
「マジかよ!」
商人達が笑う。
「蒼月亭の!」
「紅陽の宿の!」
完全に覚えられていた。
「今日も分けてくれないか?」
「図々しいねぇ」
ミレーヌは笑いながら鍋を下ろす。
「かまわないよ」
「やった!」
空気が一気に和んだ。
今日は商隊も少ない。
だからこそ、自然と距離も近い。
荷車を並べる。
共同見張りを決める。
焚き火を囲む。
昨日より小規模だが、その分だけ落ち着いた野営だった。
「また酒あるぞ」
「完全に宴会だねぇ」
笑い声が広がる。
情報交換。
街道情報。
オルフェンの話。
アルヴェリア方面の流れ。
商人達の噂話。
夜は賑やかだった。
リディアも昨日ほど警戒していない。
これだけ人数がいれば十分守れる。
焚き火の光を眺めながら、小さく息を吐く。
「……悪くないな」
夜は静かに更けていった。
そして翌朝。
また新しい流れが、それぞれの道へ動き始める。
今回は“大街道到達”回でした。
紅陽から伸びた流れは、ついに大きな物流網へ繋がり始めています。




