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第二章 第六十五話 静かな野営地

人が多い夜は賑やかです。

けれど、本当に気を張るべきなのは、静かな夜の方でした。

朝。

商隊達と別れたミレーヌ達は、再び川沿いの道を進んでいた。

荷車は静かに揺れる。

以前より整っているとはいえ、まだ大街道ほどではない。

時折、小さな商隊とすれ違う程度だ。

「結構流れてるねぇ」

ミレーヌが周囲を見ながら言う。

「川辺宿が出来て止まりやすくなったんでしょうね」

カイが答える。

橋。

宿。

荷車。

少しずつ、この道は“使いやすい道”へ変わり始めていた。

その時。

ルナが川の方へ耳を向ける。

「魚いるにゃ」

「また行くのかい」

「すぐ戻るにゃ」

そう言って森へ飛び込んでいく。

相変わらず速い。

「……慣れたものだな」

リディアが苦笑する。

「食料調達係ですね」

カイが真面目に頷いた。

しばらく進んだ後。

ルナは本当に魚を抱えて戻ってきた。

「大きいにゃ!」

「どうやって捕まえてるんだい……」

ミレーヌが呆れる。

昼頃。

川沿いの岩場で少し休憩することになった。

魚を串へ刺し、焚き火で焼く。

塩を振る。

それだけだ。

だが香ばしい匂いが広がる。

「うまいにゃー」

ルナが尻尾を揺らす。

「焼きたてはいいねぇ」

ミレーヌも笑った。

川の音。

風。

青空。

荷車を止めて、ただ魚を焼いているだけ。

「……のどかだねぇ」

ミレーヌがぽつりと言う。

リディアも周囲を見回した。

確かにそうだった。

戦いもない。

追われてもいない。

ただ道を進んでいる。

昔の自分なら、考えられなかった時間だった。

「平和ですね」

カイも小さく頷く。

そして再び道を進み始める。

やがて日が傾き始めた頃。

昨日と同じような開けた野営地へ到着した。

だが――

「……誰もいないねぇ」

静かだった。

荷車もない。

焚き火跡だけが残っている。

昨日とは違う。

かなり静かな野営地だった。

リディアの目が少し細くなる。

「こんな時こそ警戒しないと」

空気が少し引き締まる。

荷車を中央へ置く。

周囲確認。

火の位置。

逃げ道。

全部、自然と決まっていく。

その時。

リディアがミレーヌ達へ向き直った。

「ミレーヌさんとカイは荷車の中で寝て」

「ん?」

「ルナと私は外で見張るから」

ルナが耳を立てる。

「了解にゃ」

カイが少し困った顔をした。

「僕も見張ります」

「却下」

即答だった。

「昨日の見ただろ」

リディアは荷車を軽く叩く。

「魔物が来ても、荷車の中にいるってだけで私達も助かる」

それは実感だった。

荷車は壁になる。

防御になる。

守る対象をまとめられる。

昨日の野営で、それを全員が理解していた。

「だから今は休んで」

リディアは静かに言う。

カイは少し考え、

「……わかりました」

と頷いた。

やがて。

昨日と同じように鍋へ火が入る。

魚。

野草。

少量の干し肉。

簡素だが温かい夕食だった。

食事を終え、夜になる。

静かな野営地。

聞こえるのは虫の声と川音だけ。

リディアは焚き火の横で剣を抱えながら座っていた。

その隣では、ルナが丸まっている。

「寝てるだろお前」

「起きてるにゃ」

半分寝ていた。

だが、その夜。

魔物は来なかった。

山賊も来ない。

ただ静かな時間だけが流れていく。

そして朝。

東の空が白み始める頃。

リディアは小さく息を吐いた。

「……平和だな」

それは少しだけ、不思議な感覚だった。

今回は“静かな野営”回でした。

賑やかな夜とは違い、少人数の野営にはまた別の緊張感があります。

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