第二章 第六十二話 商人達の焚き火
旅の夜は長いものです。
だから人は、焚き火を囲んで話をするのでした。
野営地の空気は、すっかり和やかになっていた。
鍋はほとんど空。
代わりに、あちこちから酒瓶や干し肉が集まってくる。
「こっちの燻製も食ってみろ」
「それ絶対酒用だろ」
「当然だ」
笑い声が広がる。
ミレーヌも酒を受け取りながら笑った。
「完全に宴会だねぇ」
「こんだけ商隊集まると、だいたいこうなる」
年配商人が肩をすくめる。
荷車は円形に並べられ、外周には見張り。
中央では焚き火が揺れていた。
かなり慣れた野営だ。
カイはそんな配置を見ながら小さく呟く。
「……合理的」
「まだ言ってるにゃ」
ルナが笑う。
その頃には、自然と情報交換も始まっていた。
「最近オルフェン混んでるぞ」
商人の一人が言う。
「景気いいんですか?」
カイが聞く。
「人は増えてるな。宿不足気味だ」
「物価も少し上がってる」
別の商人も頷く。
ミレーヌは酒を飲みながら聞いていた。
「やっぱ流れ集まってるんだねぇ」
「港側が動いてるからな」
「アルヴェリア方面の荷も増えてる」
リディアが静かに耳を傾ける。
アルヴェリア。
海沿い国家。
そして、そのさらに先には獣人の国へ続く海路もある。
「北側は?」
ミレーヌが何気なく聞く。
少しだけ空気が変わった。
「古道は相変わらずだな」
「最近また妙な荷が動いてるって話は聞く」
「でも関わらねぇ方がいい」
断片的な話。
噂話。
だが、物流路の商人達は独自の情報網を持っている。
「魔族領側は?」
今度はリディアが聞いた。
「検問増えた」
即答だった。
「流れ自体は止まってねぇが、最近ちょっと空気悪い」
「傭兵増えてるな」
リディアは静かに頷く。
完全な戦争前ではない。
だが、“何か”が動いている気配はある。
その時。
別の商人がカイの荷車を見ながら言った。
「しかし、ほんと静かだなその荷車」
「揺れ少ないのもわかる」
「橋向こうじゃちょっと話題だぞ」
カイが少し困った顔をする。
「まだ試作なんですが……」
「完成したら売ってくれ」
「護送に欲しい」
「子供乗せても安心そうだ」
そんな声が次々上がる。
カイは少し驚いた顔をした。
“安心”。
その言葉が、一番しっくり来た。
ミレーヌはそんなカイを見ながら笑う。
「良かったじゃないか」
「……まだ改良必要です」
「お前ほんとそれだねぇ」
焚き火の周囲で笑いが起きる。
その頃には、リディアも少しだけ肩の力を抜いていた。
見張りは多い。
商隊も複数。
荷車も外周へ並べられている。
これだけ人数がいれば、簡単には襲われない。
「……こんな大人数の野営も悪くないね」
ミレーヌが空を見上げながら言った。
ルナは既に眠そうだった。
「平和にゃー……」
「お前食って飲んだだけだろ」
リディアが呆れる。
焚き火が揺れる。
商人達の笑い声。
酒瓶の音。
情報が行き交う夜。
紅陽から伸びた流れは、今や様々な土地と繋がり始めていた。
そして夜は、ゆっくり更けていく。
今回は“商人達との情報交換”回でした。
物流路には、人だけでなく噂や情勢も流れています。




