第二章 第五十七話 紅陽式
強さというものは、剣の腕だけでは決まりません。
支える者、守る者、繋ぐ者――それが揃って初めて、本当に強い集団になるのでした。
矢の試験が終わった後も、広場の熱気は冷めていなかった。
「ほんとに防いだな……」
「荷車で矢避けとか聞いたことねぇぞ」
商人達がざわつく。
その横で、ロークがニヤリと笑った。
「で?」
「実際、どこまで守れるんだ?」
その一言で、周囲の視線が集まる。
レオンが嫌な顔をした。
「絶対面倒な流れだろ」
「模擬戦でもするか?」
ダリウスがさらっと言った。
「ほら来た!」
ルナが楽しそうに笑う。
「やるにゃ?」
フィオも苦笑している。
その時。
カイが少し困った顔をした。
「荷車壊れません?」
「そこからか」
レオンが吹き出す。
結局。
広場外れに少し空間を作り、簡易的な模擬戦が始まった。
武器は木剣。
条件は単純。
“荷車を守りながら一定時間耐える”。
防衛側。
リディア
カイ
攻撃側。
レオン
ルナ
周囲では商人達や冒険者達が見守っている。
「なんで俺ら攻撃側なんだよ」
レオンが木剣を肩へ乗せる。
ルナはやる気満々だった。
「突破するにゃ」
一方。
カイは荷車周囲を確認していた。
位置。
角度。
車輪。
固定。
「……少し右寄せます」
「了解」
リディアが即答する。
その自然さに、周囲が少し驚く。
もう完全に連携が出来ていた。
「始め!」
ダリウスの声。
次の瞬間。
ルナが飛ぶ。
「速っ!?」
商人の誰かが声を上げる。
獣人特有の瞬発力。
一気に側面を抜こうとする。
だが。
「右から来ます」
カイが即座に言った。
同時に荷車が動く。
「うにゃ!?」
ルナの前へ荷車側面が滑り込む。
改良された車輪。
軽い動き。
荷車そのものが壁になる。
その隙に。
リディアが前へ出た。
木剣が一閃。
ルナの木剣が弾かれる。
「にゃっ!?」
無駄がない。
最短。
静かな剣。
その時。
正面からレオンが突っ込む。
「なら力押しだ!」
ガン!
木剣が荷車側面を叩く。
だが。
「硬っ!?」
補強板が衝撃を流す。
その一瞬。
「左です」
カイが言う。
リディアが動く。
レオンの木剣が流され、体勢が崩れる。
そこへ。
リディアの木剣が喉元で止まった。
「……参った」
レオンが苦笑する。
周囲が静まり返る。
今のは単純な強さではなかった。
荷車。
位置。
連携。
全部が噛み合っていた。
ルナが荷車をペシペシ叩く。
「邪魔にゃこれ!」
「壁なので」
カイが真顔で返す。
笑いが起きる。
その時。
商人の一人が小さく呟いた。
「……これ、護送で使ったら強いぞ」
ダリウスが腕を組む。
「崩れず、止まらず、守れる」
軍人目線。
ロークは商人目線。
「売れるな」
カイだけが少し違った。
荷車を触りながら呟く。
「……もう少し軽くしたいです」
「まだやるのかよ」
レオンが笑う。
カイは頷く。
「もっと安全にできそうなので」
その言葉に、リディアが少しだけ笑った。
紅陽の強さは、誰かを倒すためではない。
誰かを無事に帰すための強さだった。
今回は“紅陽式”の模擬戦回でした。
個人の強さだけではなく、荷車・連携・位置取りまで含めて、少しずつ紅陽独自の形が出来始めています。




