第二章 第五十六話 矢避け荷車
「丈夫そう」と「本当に守れる」は違います。
だから職人は、実際に試して確かめたくなるのでした。
昼過ぎ。
紅陽の広場外れ。
試作荷車の前には、ちょっとした人だかりが出来ていた。
「本当に撃つのか?」
「壊れねぇよな?」
商人達がざわつく。
ロークは腕を組みながら笑った。
「壊れたらカイが直す」
「前提なんですね……」
カイが苦笑する。
荷車側面には、薄い金属板が追加されていた。
全面ではない。
矢を受けそうな位置だけ。
木板へ角度を付けて固定してある。
ダリウスが木弓を持って前へ出る。
「どこを狙う」
「真正面じゃなく、斜めからお願いします」
カイが即答した。
「受け止めるより、流した方がいいので」
またその言葉だった。
“流す”。
ロークがニヤニヤする。
「お前、その発想好きだな」
「負担減るので」
真顔だった。
周囲から笑いが漏れる。
その時。
リディアが荷車横へ立つ。
「危なくない?」
フィオが聞く。
「確認する」
短い返事。
カイは荷車側面を軽く叩いた。
「ここなら多分……」
「多分か」
ダリウスが苦笑する。
だが弓を構えた。
静かに狙う。
そして。
ヒュッ――!
矢が飛ぶ。
ガン!
鈍い音。
矢は金属板へ当たり、斜めへ逸れた。
「おおっ!?」
周囲がどよめく。
荷車側面には浅い傷。
だが貫通はしていない。
カイがすぐ確認へ走る。
「……少し固定弱い」
「でも止めたぞ」
レオンが感心した。
ダリウスも頷く。
「真正面じゃなければ十分だな」
その時。
ロークがニヤリと笑う。
「もう一発やるか」
「え?」
今度は少し近い距離。
矢が放たれる。
ガッ!
今度は金属板が少し歪んだ。
だがやはり逸れる。
「止まった!」
「すげぇなこれ……」
商人達の目が変わり始めていた。
カイは固定具を触る。
「……やっぱり逃がし必要ですね」
「まだやるのか」
レオンが笑う。
「もっと軽くしたいです」
即答だった。
その時。
一人の商人が、荷車裏へ入ってみる。
矢の当たった側面。
その陰。
「……これ、思ったより安心感あるな」
小さく呟く。
ダリウスがその言葉へ頷いた。
「戦場でも、生き残るのはこういう壁の後ろだ」
カイは少し考える。
「なら、もう少し高さも必要かも……」
「終わりねぇな」
ロークが吹き出す。
その空気に、広場も少し笑いに包まれた。
だが。
笑いながらも、皆少し理解し始めていた。
これはただの荷車じゃない。
“守るための荷車”だ。
風が吹く。
紅陽の技術は、また一歩前へ進み始めていた。
今回は“矢避け荷車”試験回でした。
カイの発想は、あくまで「壊れにくく、安全にする」。
けれどその積み重ねが、少しずつ紅陽独自の技術になり始めています。




