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第二章 第五十三話 戻る場所

どれだけ外へ出ても、帰る場所があるだけで人は安心できます。

それは街でも、宿でも、そこにいる人達でも同じでした。

夕方。


紅陽の正門が見えてきた。


石畳の道。


門前の荷車。


そして、ロークの武器屋。


「帰ってきたにゃー!」


ルナが荷台から身を乗り出す。


「落ちるぞ」


レオンが引き戻した。


門前では、見張り役の若者達が荷車へ気付く。


「戻った!」


「川辺便だ!」


その声で、広場側も少し騒がしくなった。


蒼月亭の扉が開く。


「おかえりー!」


最初に飛び出してきたのはセラだった。


後ろからミレーヌも出てくる。


「無事かい?」


「山賊出たにゃ」


ルナが即答する。


「なんで笑顔なのさ」


ミレーヌが呆れる。


荷車が広場へ入る。


その時。


周囲の何人かが、自然と荷車を見ていた。


以前より静か。


揺れが少ない。


積荷も安定している。


「……なんか違わね?」


「ほんとだ」


職人達は気付き始めていた。


カイは荷車を止めると、すぐ下へ潜り込む。


「おい、帰って最初にそれか」


ロークが笑う。


「確認大事なので」


固定具を触る。


軸を見る。


問題なし。


だが。


「……少し削れてる」


カイが呟く。


「石畳側ですね」


ロークがしゃがみ込む。


「ほう」


「硬くした分、今度はこっちに負担来てます」


完全ではない。


まだ改良途中。


だが、それが逆にカイらしかった。


「どうする?」


「逃がし増やします」


即答だった。


ロークが吹き出す。


「その“逃がし”って言葉気に入ってんな」


「大事なので」


真顔。


その空気に笑いが起きる。


その時だった。


ミレーヌが荷車側面を軽く叩く。


「でも、昨日の話聞く限り役立ったんだろ?」


「はい」


カイは頷いた。


「荷車、盾に使えました」


その場の空気が少し止まる。


「盾?」


ダリウスが聞き返す。


レオンが説明した。


「山賊が突っ込んできた時、荷車動かして壁にした」


「荷崩れも無し」


ロークの目が少し変わる。


商人の目。


武器屋の目。


「……なるほどな」


ミレーヌも腕を組む。


「荷車そのものが防壁になるのか」


カイは少し考えながら言った。


「側面、もう少し補強したら矢も防げるかもしれません」


「矢避け荷車か?」


ロークがニヤリと笑う。


「売れるぞ、それ」


「売るというか、安全用です」


「お前はほんとそう言う」


また笑いが起きる。


だが。


ダリウスだけは静かに荷車を見ていた。


「……移動式遮蔽物、か」


小さく呟く。


軍人視点だった。


その時。


リディアが広場の外側を見る。


夕暮れ。


人の流れ。


旅人達。


そして。


“視線”。


ほんの一瞬。


誰かがこちらを見ていた。


気がした。


だが人混みに紛れ、すぐ消える。


「……」


リディアは何も言わなかった。


まだ確信がない。


けれど最近、“見る者”が増えている。


それだけは間違いなかった。


広場では、ルナが既にパンを齧っている。


「やっぱ蒼月亭にゃー」


「帰ってすぐ食うな」


「旅の後だから許されるにゃ」


笑い声が広がる。


紅陽は今日も騒がしい。


そして少しずつ。


街として、大きくなり始めていた。

今回は“紅陽帰還”回でした。

旅で得た経験が、今後の紅陽の技術や物流へ繋がり始めています。

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