第二章 第五十二話 帰路
街を作るというのは、建物を増やすことではありません。
人が行き来し、また帰って来る――その繰り返しを作ることでした。
翌朝。
川辺宿の前では、出発準備が進んでいた。
荷車はほぼ空。
代わりに、川辺村からの荷が積まれている。
干し魚。
薬草。
川沿いで採れた布素材。
そして、リナが用意した焼きたての黒パン。
「これ、ミレーヌさんに!」
「絶対喜ぶにゃ」
ルナが笑う。
リナは少し照れくさそうだった。
「まだ蒼月亭ほど上手く焼けないですけど……」
「十分売れる」
レオンが即答する。
「昨日三個食った」
「食べすぎにゃ」
そんなやり取りをしながら、荷積みは終わっていく。
その時。
カイは荷車後部を確認していた。
「……ここ少し緩んでる」
固定具を締め直す。
昨夜の長距離移動。
荷重。
細かい負担が少しずつ出ていた。
リディアが後ろから聞く。
「壊れそう?」
「いえ」
カイは首を振る。
「でも、もう少し逃がした方が良さそうです」
またその言葉だった。
“逃がす”。
硬くするだけでは駄目。
流す。
分散する。
カイの修理は、いつもそんな考え方だった。
その時。
リナが少し不安そうに聞いた。
「帰りも山賊、出ますかね……」
レオンが肩をすくめる。
「出る時は出る」
「正直!」
フィオが笑った。
だがリディアは静かに周囲を見ている。
昨日の視線。
あれは山賊ではなかった。
もっと静かだった。
「……」
考える。
だが情報が足りない。
今はまだ動かない。
やがて。
荷車がゆっくり動き出す。
リナ達が手を振る。
「気をつけてください!」
「また来るにゃー!」
川辺宿を離れ、再び街道へ。
昨日と違い、昼間は旅人も多い。
商人。
行商。
護衛付き荷車。
以前より明らかに人が増えていた。
「ほんと流れ変わったな」
レオンが周囲を見回す。
「紅陽できてから、この道生き返ってる」
フィオも頷く。
「前は静かだったのに」
その時。
前から来た商人風の男が、荷車を見て目を丸くした。
「……その荷車、改良してるのか?」
カイが少し驚く。
「わかるんですか?」
「車輪音が違う」
男は荷車を見ながら言う。
「揺れも少ないだろ」
完全に商人目線だった。
ロークの予想通り。
“道具”を見る人間は気付き始めている。
「売るのか?」
男が聞く。
カイは困った顔をした。
「まだ試作品なので……」
「完成したら教えてくれ」
男は笑って去っていく。
ルナがニヤニヤしながらカイを見る。
「人気者にゃ」
「いや、荷車がです」
「そこ否定するのにゃ?」
笑いが起きる。
だがその横で、リディアは静かに考えていた。
人が増える。
物が流れる。
評判が広がる。
それは街として正しい。
けれど同時に。
“見られる”ということでもある。
風が吹く。
荷車は、再び紅陽への道を進んでいった。
今回は“帰路と物流の変化”回でした。
紅陽の変化は、少しずつ周囲の商人達にも認識され始めています。




