第二章 第五十話 川辺宿への荷
道を越えた先に、待っている人がいる。
それだけで、旅は少しだけ軽くなるのでした。
翌朝。
一行は早めに野営地を出発した。
昨夜の山賊騒ぎはあったものの、荷車に大きな損傷はない。
カイは歩きながら何度も車輪を確認していた。
「大丈夫そう?」
フィオが聞く。
「はい」
カイは頷く。
「固定具も問題ありません」
レオンが苦笑した。
「普通、山賊に襲われた翌朝は敵の心配するんだけどな」
「荷車の方が心配なので」
即答だった。
ルナが笑う。
「カイらしいにゃ」
森道を抜ける。
やがて視界が開け、川の流れる音が聞こえてきた。
川辺の村だ。
「見えてきた」
リディアが静かに言う。
村の入口近くには、小さな看板。
『蒼月亭 川辺宿』
以前はただの民家だった建物。
だが今は、立派に宿の形になっていた。
「来たー!」
入口からリナが飛び出してくる。
後ろでは数人の村娘達が忙しそうに動いていた。
「無事だったんですね!」
「山賊ぐらいで止まらないにゃ」
ルナが胸を張る。
「いたの!?」
「いた」
レオンが疲れた顔で答える。
リナの顔が青くなる。
「だ、大丈夫だったんですか?」
「問題ない」
リディアが短く答える。
その一言だけで安心感がある。
カイ達は荷車を宿裏へ回した。
「荷崩れしてない……」
リナが驚く。
以前なら、道中で多少崩れていた。
だが今回は違う。
箱も安定している。
酒樽もずれていない。
「荷車、改良中なんです」
カイが説明する。
「少しだけですけど」
その時。
宿の手伝いをしていた青年が荷車を押そうとして、目を丸くした。
「軽っ!?」
ローク製荷車は元々頑丈だった。
だが今は動きが違う。
「ほんとだ……」
リナも驚いている。
カイは少し嬉しそうだった。
その様子を、リディアが静かに見ていた。
“北側の技術”。
それが今、少しずつ紅陽へ混ざり始めている。
だが。
それを誰も大袈裟には考えていない。
「カイさん!」
リナが慌てて声を上げる。
「厨房の棚、また傾いてるんです!」
「えっ」
「あと裏口も閉まり悪くて!」
「見ます!」
即座に向かうカイ。
レオンが吹き出した。
「仕事増えてるじゃねぇか」
「修理屋だからにゃ」
ルナが笑う。
その間にも、宿には旅人が入ってくる。
最近は川沿いを使う商人も増えていた。
「紅陽から来たのか?」
「道どうだった?」
そんな声も聞こえる。
流れが出来始めている。
人。
荷。
情報。
全部が少しずつ繋がっていく。
夕方。
厨房修理を終えたカイが外へ出る。
川辺の風が涼しかった。
その横へ、リディアが来る。
「荷車、成功だったね」
「まだ改良必要ですけど」
カイは苦笑した。
「でも、前より壊れにくいです」
その時。
川向こうを見ていたリディアの目が、ほんの少しだけ細くなる。
遠く。
森側。
何かが動いた気がした。
だが一瞬だった。
「……?」
気のせいかもしれない。
リディアは何も言わなかった。
今回は“川辺宿到着”回でした。
紅陽と川辺宿を結ぶ流れが、少しずつ形になり始めています。




