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第二章 第四十八話 弁当と焚き火

遠くへ行く時ほど、出発前の時間は慌ただしくなります。

けれど、その慌ただしさもまた、誰かを送り出す温かさでした。

早朝。


蒼月亭の厨房は、朝から慌ただしかった。


「ルナー! 包み足りないよ!」


「今やってるにゃー!」


机の上には大量の弁当。


焼き肉。


干し肉。


卵焼き。


野菜の酢漬け。


そして大きな黒パンのサンド。


ミレーヌが次々と布へ包んでいく。


「これ絶対多いですよね……?」


カイが苦笑した。


「道中で腹減るだろ?」


ミレーヌは即答する。


「食える時に食っときな」


ルナが横から頷いた。


「ミレーヌさんの弁当は正義にゃ」


「何その理屈」


レオンが吹き出す。


その頃、外では荷車準備が進んでいた。


ロークが固定具を確認している。


「お、昨日よりいいな」


新しい金具。


昨日微調整した試作品だった。


「少し逃がしを増やしました」


カイが説明する。


「硬すぎると衝撃が集中するので」


ダリウスが荷車を軽く揺らす。


以前より軋みが少ない。


「本当に変わるもんだな」


「まだ試験段階ですけど」


カイは少し嬉しそうだった。


やがて準備が終わる。


今回の同行は、


カイ

リディア

ルナ

レオン

フィオ


の五人。


川辺宿への補給便だ。


ミレーヌが弁当袋を押し付ける。


「絶対途中で食べな」


「はいはい」


「返事軽い!」


笑いが起きる。


その空気を見ながら、リディアは静かに周囲を確認していた。


最近、人の流れが増えている。


だからこそ警戒は必要だった。


「じゃ、行ってきます」


カイが頭を下げる。


「いってらっしゃい!」


ルミア達に見送られながら、荷車は紅陽を出発した。


石畳は滑らかだった。


車輪音も静か。


「やっぱ違うな」


レオンが感心する。


「揺れ少ない」


フィオも頷いた。


以前ならもっとガタついていた。


その時。


カイが耳を澄ませる。


「……いい感じです」


「音でわかるのか?」


レオンが聞く。


「なんとなくです」


カイは少し笑った。


「変な音が減ってるので」


ルナが荷台へ寝転がる。


「快適にゃー」


「落ちるなよ」


「落ちないにゃ」


そんなやり取りをしながら、一行は街道を進んでいく。


昼。


街道脇で休憩。


ミレーヌ特製弁当が開かれる。


厚切り肉を挟んだ黒パン。


香草入りの卵。


燻製肉。


少し硬めのチーズ。


「うまっ」


レオンが即座に言った。


「あたりまえにゃ!」


ルナが何故か誇らしげだ。


「お前作ってないだろ」


「味見したにゃ」


「つまみ食いでは?」


フィオが笑う。


リディアは静かにお茶を飲みながら周囲を見ていた。


森。


風。


鳥の声。


異常はない。


だが最近は、“何もない”方が少し怖い。


その日の夕方。


一行は街道から少し外れた場所で野営をすることになった。


焚き火。


荷車を囲うように配置する。


レオン達が手慣れた動きで準備を進めていく。


「慣れてるね」


カイが感心する。


「冒険者だからな」


レオンが薪を放る。


「外泊は日常だ」


夜。


焚き火の火が静かに揺れる。


ルナはもう半分眠そうだった。


「食べて寝るにゃ……」


「猫か」


「獣人にゃ」


フィオが吹き出す。


その横で、カイは荷車を確認していた。


固定具。


軸。


車輪。


全部もう一度見る。


リディアが静かに近づいた。


「心配?」


「試作品なので」


カイは少し苦笑する。


「壊れないといいなって」


リディアは荷車を見上げる。


「でも、前より静か」


「はい」


カイは頷いた。


「流れが綺麗です」


またその言葉だった。


リディアは少しだけ笑う。


「まだよくわからない」


「俺もです」


カイも笑った。


風が吹く。


焚き火が揺れる。


遠くで夜鳥が鳴いた。


その時だった。


リディアの視線が、森へ向く。


ほんのわずか。


空気が動いた気がした。


「……」


だが、まだ何も言わない。


夜は静かに更けていった。

今回は“移動と野営”回でした。

紅陽の外で過ごす時間だからこそ、仲間達の日常や距離感が見えてきます。

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