第二章 第四十七話 試作品
新しいものは、最初から完璧にはできません。
だからこそ、少しずつ試して、壊して、直していくのでした。
翌朝。
紅陽の正門前。
ロークの武器屋の横には、一台の荷車が止められていた。
「本当にこれで行くのか?」
レオンが荷車を覗き込む。
「壊れたら責任取れよ」
「まだ試作品なので」
カイは真面目に答えた。
余計に不安になる。
今回交換したのは、荷車の一部だけ。
車輪固定具。
軸受。
そして荷締め金具。
全部、昨日作った試作品だった。
ロークが腕を組む。
「まぁ壊れたら直しゃいい」
「軽いんだよな、これ」
ダリウスも実際に荷車を押してみる。
「動きが妙に滑らかだ」
「摩擦が減ってるんだと思います」
カイが答える。
「多分ですけど」
「多分で街の荷車変えるなにゃ」
ルナが呆れた。
だが、興味もある。
その時。
ミレーヌが荷台へ箱を積む。
「川辺宿まで運ぶんだろ?」
「はい」
「ちょうどいい試験になります」
リナへの追加物資。
食材。
酒。
布。
そして宿用備品。
最近、川辺宿もかなり忙しい。
荷の量は以前よりずっと増えていた。
「誰が行く?」
ロークが聞く。
「俺が行きます」
カイが答える。
その瞬間。
「私も行く」
リディアだった。
即答。
もう誰も止めない。
ミレーヌが苦笑する。
「完全にセットだねぇ」
「誓ったので」
リディアは静かに言う。
その時。
ルナが手を挙げた。
「じゃあ私も行くにゃ」
「なんで?」
「面白そうだからにゃ」
レオンが吹き出した。
「理由が軽い」
「大事にゃ」
結局。
カイ、リディア、ルナ。
さらに護衛として《黎明の風》からレオンとフィオも同行することになった。
昼前。
荷車は紅陽を出発する。
石畳の感触は滑らかだった。
「やっぱ道いいな」
レオンが感心する。
以前より揺れが少ない。
その時。
カイが荷車の音へ耳を向けた。
「……静かだ」
「ん?」
「軋み音が減ってます」
確かに。
以前より振動が少ない。
固定具が安定している。
ルナが荷台を軽く叩く。
「揺れ少ないにゃ」
「荷崩れもしにくそう」
リディアは静かに周囲を警戒していた。
だが同時に、荷車も見ている。
ほんの少しだけ。
北側の荷車を思い出した。
似ている。
もちろん、まだ全然違う。
だが。
方向は近い。
その時だった。
ガタン。
小さな音。
全員が止まる。
「壊れた!?」
レオンが振り返る。
だがカイはすぐ荷車下を覗き込んだ。
「……違う」
固定具の一つが、少し歪んでいた。
「硬すぎました」
カイが呟く。
「逃げが足りない」
ルナが首を傾げる。
「逃げ?」
「硬いだけだと衝撃が集中するんです」
カイは工具を取り出した。
「少し柔らかくしないと」
その場で微調整を始める。
リディアが静かに見ていた。
「壊れたら直すんだね」
「はい」
カイは頷く。
「壊れるの前提で考えた方が、長持ちするので」
レオンが苦笑した。
「修理屋らしい考え方だな」
カイは少し笑う。
「前からそうだった気がします」
その言葉に、リディアがほんの少しだけ目を細めた。
“前から”。
それは、どんな意味なんだろうと思った。
風が吹く。
荷車は再び動き出す。
まだ未完成。
でも少しずつ。
紅陽の技術は、新しい方向へ進み始めていた。
今回は“北方金属の試験運用”回でした。
カイは完璧な発明家ではなく、“壊して直す”ことで前へ進んでいきます。




