第二章 第四十六話 混ぜるという発想
職人には、それぞれ癖があります。
叩き方、削り方、繋ぎ方。
そして時々、“考え方”そのものが違う者もいました。
数日後。
蒼月亭裏の鍛冶場。
カン、カン、と小気味良い音が響いていた。
「また変なこと始めたな」
ロークが呆れたように言う。
鍛冶台の前では、カイが北側の金具をじっと見つめていた。
隣には、砕いた鉄片。
炭。
そして見慣れない比率で分けられた金属粉。
「混ぜるのか?」
ダリウスが腕を組む。
「はい」
カイは頷いた。
「この金属、多分“硬い”だけじゃないんです」
「粘りがある」
ロークが眉をひそめる。
「粘り?」
「衝撃を逃がしてる感じです」
カイは言葉を探しながら続ける。
「普通、硬くすると割れやすくなるんですけど……これは違う」
「だから荷車に向いてる」
ロークが小さく唸る。
武器屋として理解はできる。
硬すぎる武器は折れる。
だが柔らかすぎれば切れない。
その中間は難しい。
カイは北側の金具を軽く叩く。
澄んだ音。
「……熱の入り方も違う」
小さく呟く。
その目は、どこか遠かった。
まるで何かを思い出そうとしているような。
「温度で変わる……」
「冷やし方も……いや、混合比率か……?」
ロークが顔をしかめる。
「何言ってるかわからん」
「俺も半分わかってません」
カイは苦笑した。
「でも、多分こっちです」
そう言って、炉へ金属を入れる。
火力を上げる。
色を見る。
赤。
橙。
白へ近づく前に止める。
「そこでもう止めるのか?」
ダリウスが聞く。
「熱入れすぎると流れが死ぬ気がするんです」
「流れ?」
「はい」
また、皆わからない顔になる。
カイ自身も上手く説明できない。
ただ。
“そうした方がいい”。
そんな感覚だけがある。
やがて。
金属を取り出し、叩く。
混ぜる。
また熱する。
そして今度は急冷しない。
ゆっくり冷ます。
ロークが目を細めた。
「普通と逆だな」
「割れやすそうだったので」
カイは真剣だった。
数時間後。
ようやく一本の細い棒が出来上がる。
「……軽い」
ダリウスが驚く。
ロークも受け取ってみる。
「なのに硬ぇ」
「完全じゃないです」
カイは首を振った。
「でも近い感じはあります」
その時。
後ろからリディアが静かに言った。
「荷車に使う?」
「まずはそっちですね」
カイは頷く。
「武器より、軸とか固定具の方が向いてそうです」
ロークが吹き出した。
「お前、本当に修理屋だな」
「壊れにくい方がいいので」
即答だった。
その空気に、少し笑いが起きる。
だが。
リディアだけは、出来上がった金属を静かに見ていた。
“北側の金属”。
そして。
それを再現し始めたカイ。
まだ誰も気付いていない。
それが、どれほど異常なことなのかを。
今回は“北方金属”への第一歩でした。
カイは理論家ではなく、あくまで“現場の修理屋”。
だからこそ、常識外れの発想へ辿り着いていきます。




