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第二章 第三十八話 北へ向かう道

街道とは、人が安心して通るための道です。

だからこそ、“誰にも知られず使われる道”には、別の意思がありました。

夕方。


紅陽の見張り台。


石畳の先、正門方向を見渡せる場所に、リディアとダリウスの姿があった。


風は冷たい。


最近、北側から吹く風が少し強い。


「また出たか」


ダリウスが低く言う。


「ああ」


リディアも短く答えた。


視線の先。


中央通りを抜けた荷車が、街の北外れで進路を変えている。


正規街道ではない。


森側。


しかも、以前見つけた裏道方向だった。


「今日で三回目」


リディアが言う。


「頻度が増えてる」


荷車は二台。


黒布で荷を覆っている。


護衛は少数。


だが動きが妙に整っていた。


「商隊じゃないな」


ダリウスが腕を組む。


「軍でもない」


そのまま荷車は、森側の道へ消えていった。


しばらく沈黙。


やがてダリウスが口を開く。


「……あの先は、普通は使わん」


「山脈側?」


「ああ」


ダリウスは頷いた。


「北方山脈へ続く古道がある」


「だが今はほぼ死道だ」


「軍も使わん」


「商人も避ける」


リディアが静かに聞く。


「理由は?」


「割に合わん」


即答だった。


「寒さ」


「崖」


「魔物」


「補給不可」


「しかも越えた先に何があるかも曖昧だ」


その時だった。


後ろから声。


「ルミア様達も来ましたよ」


カリナだった。


その後ろにはルミアとカイもいる。


「また北ですか」


ルミアが荷車の消えた方向を見る。


「うん」


リディアが頷く。


カイは少し考え込んでいた。


「……車輪、かなり特殊でした」


「特殊?」


カリナが聞く。


「長距離用です」


「普通の街道向けじゃない」


「岩場とか悪路前提の補強でした」


ダリウスが小さく舌打ちする。


「本当に山越えする気か」


その言葉に、少し空気が冷える。


ルミアが静かに呟いた。


「魔族領のさらに北……」


「私も文献でしか知りません」


「向こう側は?」


カイが聞く。


ルミアは少し考える。


「古い記録だと、“白霧の地”とか、“凍土国家”とか……」


「ただ、ほとんど伝承です」


「まともな交易記録は残っていません」


カリナが補足する。


「少なくとも、正規交易路は存在しません」


つまり。


今動いている荷車は、正式な流れではない。


誰にも知られず。


誰にも見られず。


北へ向かっている。


その時だった。


ルナが見張り台へ駆け上がってくる。


「また荷車出たにゃ!」


全員が振り向く。


「もう?」


「今度は一台!」


息を切らしながら言う。


「しかも急いでるにゃ!」


リディアが即座に立ち上がる。


「見る」


「俺も行く」


ダリウスも続く。


その横で、カイが静かに呟いた。


「……荷の量、増えてる」


誰も答えない。


だが全員、同じことを考えていた。


何かが動いている。


しかも。


かなり大きい。


夕暮れの北側。


森へ消える荷車の音だけが、静かに残っていた。

今回は“北方古道”の存在が少し具体化する回でした。

まだ正体は見えませんが、“何か大きな流れ”だけは確実に動き始めています。

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