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第二章 第三十七話 商館と鍛治場

街が発展すると、人は集まります。

ですが本当に価値があるのは、“ここでしか得られないもの”でした。

朝。


紅陽の中央通りは、今日も騒がしかった。


荷車。


商人。


冒険者。


その流れの中に、以前より“長居する者”が増えている。


「完全に滞在型増えたねぇ」


蒼月亭の窓から外を見ながら、ミレーヌが言った。


「川辺宿のおかげで流れが安定してます」


カリナが帳簿を確認する。


「橋側で一泊」


「翌日、紅陽」


「さらに商隊同士の時間調整も容易になっています」


ルミアが静かに頷く。


「拠点化が始まっていますね」


以前なら、“通過地点”だった。


今は違う。


人が留まり、情報が溜まり、商談まで始まっている。


その時。


「おいカイ!」


外から声。


ロークだった。


「鍛治場、見ろ!」


「え?」


カイが外へ出る。


すると。


鍛治場前に、荷車が三台止まっていた。


「……増えてる」


昨日よりさらに依頼が増えている。


剣。


鎧。


槍。


車輪金具まである。


「完全に修理場扱いされてるぞ」


ロークが呆れた顔をする。


「元々修理屋ですし」


カイは苦笑した。


その時。


「あなたが紅陽の鍛治師か?」


低い声。


振り向くと、大柄な冒険者が立っていた。


腰には、大剣。


かなり使い込まれている。


「はい」


「噂を聞いた」


男は剣を抜く。


刃が欠けていた。


「直せるか?」


カイは剣を見る。


重さ。


金属。


割れ方。


しばらく見てから答えた。


「直せます」


男の目が少し変わる。


「本当か?」


「ただ」


カイは続ける。


「少し時間ください」


「無理に削ると寿命縮みます」


周囲の冒険者達がざわつく。


ちゃんと見ている。


ただ叩き直すだけではない。


ロークがニヤニヤしていた。


「だから人気なんだよ」


その頃。


広場では、エドガー達が商館予定地を再確認していた。


木材搬入。


倉庫配置。


護衛人数。


全部を細かく詰めている。


「本当に小規模から始めるんですね」


ルミアが言う。


「信用は段階的に積みます」


エドガーは即答した。


その視線が、鍛治場方向へ向く。


「……それにしても」


「鍛治場の人気が想定以上です」


カリナが静かに答える。


「カイの技術は特殊です」


「魔力剣の件ですか?」


「それだけではありません」


カリナは少しだけ考える。


「“壊れ方”を見ています」


エドガーの目が細くなる。


興味を持った顔だった。


「なるほど」


「修理ではなく、“状態管理”」


「ええ」


そこへ、ダリウスが現れる。


背中には、あの唯一の剣。


今日は研ぎ直し後らしく、刃が静かに光を反射していた。


エドガーが視線を向ける。


「……あれが例の」


「合作剣だ」


ダリウスが短く答える。


「魔力は流れん」


「だが、十分だ」


その言葉には妙な説得力があった。


エドガーはしばらく剣を見ていた。


「面白いですね」


「紅陽は“魔力技術”だけではない」


「古い職人技術も残している」


ダリウスは少しだけ笑う。


「技術ってのはな」


「積み重ねだ」


その時だった。


リディアが広場奥を見て、ふと目を細める。


「……まただ」


「何がにゃ?」


ルナが聞く。


中央通りの奥。


昨日と似た荷車。


しかも今度は二台。


荷は布で覆われている。


そして。


また、森側方向へ消えていく。


リディアの目が静かに冷える。


「増えてる」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


表では、街が広がっていく。


だがその裏側でも。


確実に、何かが動き始めていた。

今回は“紅陽の技術が外へ認識され始める回”でした。

そして同時に、森側の流れも少しずつ近付いてきています。

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