第二章 第三十五話 商館予定地
街が広がれば、土地にも意味が生まれます。
どこへ何を置くか――それだけで、街の形は変わっていくのでした。
翌朝。
紅陽の中央広場は、朝から賑わっていた。
石畳を行き交う荷車。
露店の声。
鍛冶場の金属音。
そして、その広場の一角に、エドガー達の姿がある。
「……ここですか」
エドガーが周囲を見回した。
その隣には、ルミア、カリナ、ローク。
少し後ろに、カイとリディア。
完全に視察だった。
「今空いてる場所で、一番流れがいい」
ロークが言う。
場所は中央通り沿い。
正門から入ってきた荷車が、蒼月亭へ向かう途中にある。
以前は空き地だった。
だが今は、完全に“中心地候補”である。
「悪くないですね」
エドガーが素直に頷く。
「広さも十分」
「倉庫置けるにゃ?」
ルナが聞く。
「可能です」
「ただし最初は小規模から始めます」
エドガーは即答した。
以前の彼なら、もっと大きく出ていただろう。
だが今は違う。
紅陽側の警戒を理解している。
「最初から飲み込もうとすると、嫌われるので」
「わかってるじゃないか」
ミレーヌが笑った。
その時。
カイが地面を見ていた。
「……ここ、水流れ考えた方がいいですね」
「雨降ると溜まりそうです」
エドガーが少し驚く。
「見ただけでわかるんですか?」
「石畳敷いた時に結構見ましたから」
カイは少し照れたように笑う。
「荷車通る場所ですし」
ロークがニヤッとする。
「だから便利なんだよ、こいつ」
完全に“街の技術屋”扱いだった。
その頃。
広場では、旅人達が噂話をしている。
「商館できるらしいぞ」
「ヴェルディアの?」
「本格的だな……」
「もう完全に交易都市じゃねぇか」
その言葉に、ルミアは少しだけ静かになる。
交易都市。
以前なら考えられなかった。
だが今は、現実として形になり始めている。
その時だった。
「……リディア」
カリナが小さく呼ぶ。
リディアは、広場の外側を見ていた。
「どうしました?」
「……あれ」
視線の先。
中央通りの奥。
荷車が一台止まっている。
特別な荷車ではない。
だが。
「見覚えがある」
リディアの声が低くなる。
荷車の車輪。
補強位置。
積載構造。
森側で見た轍と似ていた。
しかも。
御者がこちらを見た瞬間、視線を逸らした。
「……」
空気が少し変わる。
リディアが動こうとした、その時。
「やめておけ」
ロークが低く言った。
「今ここで動くと、“気付いてる”って教えることになる」
リディアは止まる。
確かにその通りだった。
荷車は、そのままゆっくり街を抜けていく。
だが。
リディアはしっかり記憶していた。
車輪の形。
補強鉄板。
荷台構造。
全部。
その横で、エドガーが静かに呟く。
「……裏も、紅陽を使い始めていますか」
「まだ使わせてないにゃ」
ルナの声が少し冷えた。
「今のところは、ね」
カリナが続ける。
穏やかな視察。
だが、その裏では。
確実に、“別の流れ”も動き始めていた。
今回は“商館予定地視察”回でした。
表側の発展と同時に、裏側の流れも少しずつ近付いてきています。




