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第二章 第三十四話 席につく者達

大きくなるということは、選ばれるだけではなく、“選ぶ側”になることでもありました。

夜。


蒼月亭の奥。


以前、ヴェルディア商業同盟との交渉が行われた大テーブルに、再び主要メンバーが集まっていた。


机の上には、簡易地図。


交易路。


川辺の村。


橋。


そして、紅陽。


カリナが静かに口を開く。


「商館設置の利点は明確です」


「物流速度上昇」


「価格安定」


「定期便固定化」


「さらに外部商人の呼び込みも容易になります」


「まぁ、そこはわかる」


ロークが腕を組む。


「問題は“どこまで入れるか”だ」


ルミアも頷いた。


「商館を認めるということは、“影響力”を認めることでもあります」


ミレーヌは椅子へ深く座ったまま言う。


「でも、人の流れ自体はもう止まらないよ」


誰も否定しない。


現実として。


紅陽はもう“通り道”ではなくなり始めている。


「だから管理が必要なんだろうねぇ」


その時。


リディアが静かに口を開いた。


「森側の流れ」


「最近、頻度が増えている」


カリナが視線を向ける。


「どの程度ですか?」


「二日に一回以上」


「以前より明らかに多い」


空気が少し張る。


ルミアが地図を見る。


「……紅陽の発展と連動していますね」


「人の流れが増えれば、裏も動く」


カリナが冷静に整理した。


その横で。


カイは少し考えるように地図を見ていた。


「……正規街道を避けてるのが気になります」


全員の視線が向く。


カイは少しだけ言葉を探した。


「普通の商隊なら、整備された道を通る方が楽です」


「荷車も壊れにくい」


「でも避けてる」


「つまり、“見られたくない”」


静かに言う。


ロークが鼻を鳴らした。


「商人視点でも同じだな」


「裏荷だ」


その時。


入口が開いた。


「失礼します」


エドガーだった。


今回は一人ではない。


後ろには、数名の商人達もいる。


だが全員、護衛を最低限しか連れていない。


完全に“交渉姿勢”だった。


「……早かったねぇ」


ミレーヌが言う。


「紅陽は今、重要地点ですので」


エドガーは席へ着いた。


以前とは違う。


最初から対等の席に座っている。


そこへ、ルナが焼きたてのパンを置く。


「はいにゃ」


「ありがとうございます」


エドガーは少し驚いたようだった。


「前より柔らかいですね」


「改良したにゃ」


ルナは少し得意げだった。


空気がほんの少し緩む。


その後。


エドガーは本題へ入った。


「商館についてですが」


「こちらとしては、交易管理施設として機能させたい」


「武装拠点化はしない」


「護衛人数も制限可能です」


かなり譲歩している。


カリナが確認する。


「常駐人数は?」


「最初は十名以下」


「倉庫管理、価格調整、定期便対応が主です」


ルミアが静かに聞く。


「そして、情報も集まる」


エドガーは頷いた。


「当然です」


「ですが、それは紅陽側にも利益になります」


誤魔化さない。


そこは一貫していた。


その時だった。


リディアがふと窓の外を見る。


夜の石畳。


荷車の灯り。


人の流れ。


そして遠く。


森側の暗闇。


「……」


静かな違和感。


何かが近付いている。


まだ形はない。


だが、確実に流れが変わり始めている。


その感覚だけは、はっきりあった。


一方。


蒼月亭の中では、交渉が続いていた。


紅陽は、もう“隠れた場所”ではない。


だからこそ。


席につく者達も、増え始めていた。

今回は“商館交渉本格化”回でした。

紅陽が成長するほど、外部勢力との距離感も重要になっていきます。

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