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第二章 第三十三話 商人達の視線

街が広がれば、人も増えます。

そして人が増えれば、“利益の匂い”を嗅ぎつける者達も現れるのでした。

昼過ぎ。


蒼月亭はいつものように賑わっていた。


荷運び。


冒険者。


商人。


最近は、明らかに“長居する客”も増えている。


「川辺宿、今日も満室らしいぞ」


「橋待ち減ったなぁ」


「流れ良くなったよな」


そんな会話が自然に聞こえる。


カウンターの中では、ミレーヌが皿を拭いていた。


「完全に流れ変わったねぇ」


「ですね」


カイも窓の外を見る。


石畳。


荷車。


人の流れ。


以前の“辺境の村”感は、かなり薄れてきていた。


その時だった。


入口が開く。


入ってきた男を見て、ロークが目を細める。


「……また来たか」


ヴェルディア商業同盟。


エドガーだった。


相変わらず整った服装。


無駄のない動き。


だが以前より、少し空気が柔らかい。


「お久しぶりです」


「今度は何の用だい?」


ミレーヌが聞く。


エドガーは店内をゆっくり見回した。


混雑。


回転。


安定した空気。


全部を観察している。


「……前回来た時より、さらに発展していますね」


「おかげさまでねぇ」


ミレーヌは笑う。


エドガーは少しだけ口元を緩めた。


「率直に申し上げます」


「ヴェルディア商業同盟は、紅陽を正式な交易拠点として認識しました」


空気が少し変わる。


カリナが静かに顔を上げた。


「以前は違った、と?」


「可能性段階でした」


エドガーは否定しない。


「ですが現在は違う」


窓の外を見る。


「物流」


「治安」


「宿泊」


「補給」


「全てが急速に整い始めている」


その評価は、かなり高かった。


ロークが腕を組む。


「それで?」


エドガーは一拍置いた。


「商館設置をご提案します」


静かになる。


「商館?」


ルミアが聞く。


「はい」


エドガーは頷いた。


「ヴェルディア商業同盟の正式拠点を、紅陽へ置きたい」


その瞬間。


空気がわずかに張った。


商館。


つまり。


常駐。


人。


金。


物流。


情報。


全部が入り込む。


「便利にはなるねぇ」


ミレーヌが言う。


「かなり」


エドガーも認める。


「定期便の安定化」


「交易量増加」


「価格安定」


「護衛依頼も組みやすくなる」


利点は大きい。


だが。


カリナが静かに口を開いた。


「同時に、“入り込まれる”」


エドガーは真正面から頷いた。


「否定しません」


「商業とはそういうものです」


誤魔化さない。


そこは以前と同じだった。


ロークが鼻を鳴らす。


「正直すぎる商人だな」


「信頼を失う方が損ですので」


エドガーは淡々としている。


その時だった。


入口近く。


リディアが静かに口を開いた。


「森側の動きが増えている」


空気が変わる。


エドガーの視線も向く。


「……詳細を」


「荷車」


「複数」


「街道を避けて移動」


「魔物避けを大量使用」


短い説明。


だが十分だった。


エドガーの目が細くなる。


「密輸……あるいは非合法輸送」


「こちらも同じ見解です」


カリナが答える。


ルミアは少し考え込む。


「つまり」


「紅陽が目立ち始めたことで、裏の流れも動き始めている」


誰も否定しなかった。


静かな沈黙。


その後。


エドガーがゆっくり口を開く。


「……だからこそ、商館が必要です」


視線が集まる。


「流れが大きくなれば、表と裏を分ける管理も必要になる」


「今後、紅陽はさらに狙われます」


その言葉には、商人らしい冷静さがあった。


脅しではない。


現実確認。


ミレーヌはゆっくり椅子へ座る。


「大きくなるってのも、楽じゃないねぇ」


誰も笑わなかった。


窓の外では、また新しい荷車が石畳を通っていく。


紅陽は、もう小さな村ではない。


だからこそ。


世界の視線も、少しずつ集まり始めていた。

今回は“外部勢力が本格的に紅陽を認識する回”でした。

街が大きくなるほど、利益も、人も、思惑も集まってきます。

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