第二章 第三十一話 帰る場所
外へ出て初めてわかることがあります。
それは、“帰る場所”の大きさでした。
紅陽への帰り道。
昼を少し過ぎた頃だった。
荷車は順調に進んでいる。
川辺の村で積んだ食材や、細かな報告書類もある。
「思ったより落ち着きましたね」
カイが言う。
「リナ達なら大丈夫そうです」
「最初の数日は忙しいだろうけどねぇ」
ミレーヌは荷台に腰掛けながら答えた。
「まぁ、宿屋は慣れだよ」
その時だった。
リディアが足を止める。
「……来る」
空気が変わった。
森側。
草が揺れる。
次の瞬間。
低い唸り声と共に、灰色の魔狼が飛び出した。
さらに二体。
計三。
「魔狼か」
ミレーヌが眉をひそめる。
「カイ、下がって」
リディアは静かに剣を抜いた。
青白い光が刃を包む。
魔狼達は飢えているのか、真っ直ぐ荷車を狙ってくる。
「遅い」
リディアが一歩踏み込む。
一閃。
最前の一体が地面を転がった。
だが残り二体が左右へ散る。
連携。
普通の冒険者なら少し厄介だ。
その時だった。
「にゃはは、間に合ったにゃ!」
木の上から声。
次の瞬間、小さな影が飛び降りる。
ルナだった。
「ルナ?」
カイが驚く。
「見張りが気がついて教えてくれたの」
ルナは軽やかに着地した。
「街道側、最近魔物増えてるって」
その瞬間。
残り一体が飛びかかる。
ルナの目が変わった。
「それで来たの?」
声が冷える。
一歩。
一瞬で間合いへ入る。
「遅いにゃ」
蹴り。
魔狼が横へ吹き飛ぶ。
同時に、最後の一体へリディアが踏み込む。
青白い斬撃。
静かに決着。
戦闘は、数秒で終わった。
ルナは倒れた魔狼を見下ろす。
「最近ちょっと多いにゃ」
「森側の影響かもしれない」
リディアが短く答える。
だが深くは言わない。
今はまだ断片しかない。
「まぁいいや」
ルナはすぐ空気を戻した。
「帰ろ帰ろ。お腹空いたにゃ」
ミレーヌが笑う。
「結局そこかい」
再び荷車が動き出す。
石畳の見える頃には、夕日が赤く街を照らしていた。
紅陽。
門前では、人の出入りが続いている。
旅人。
商人。
冒険者。
そして、中央通りの先。
蒼月亭から灯りが漏れていた。
「戻ったにゃー!」
ルナが先に飛び込む。
店内は忙しかった。
「注文三番!」
「水追加します!」
「そっち片付けお願い!」
完全に回っている。
だが。
「……やっぱりミレーヌさんすごいです」
ルミアが、ぐったりしながら呟いた。
「ええ」
カリナも珍しく疲れた顔をしている。
「実際に回してみるとわかります」
「全体を見ながら動くのは簡単ではありません」
ミレーヌは笑いながらカウンターへ入った。
「ほらほら、まだ夜あるよ」
その瞬間。
店の空気が少し締まる。
ルミアが苦笑した。
「帰ってきた瞬間にわかりますね……」
「空気変わるにゃ」
ルナも頷く。
カイはその様子を見ながら、少し安心したように笑った。
川辺の村にも。
紅陽にも。
ちゃんと灯りが残っている。
それだけで、十分だった。
今回は“帰還回”でした。
外へ出たからこそ、“帰る場所”の強さが見える回になったと思います。




