第二章 第二十二話 流れの管理
人が増え、荷物が増え、道が繋がる。
そうなれば次に必要なのは、“管理”でした。
紅陽の朝は早い。
まだ日が昇り切る前から、西門では荷車待ちの列ができ始めている。
「止まるな止まるな! 右寄せろ!」
警備隊の声が飛ぶ。
「石材搬入が先だ!」
「商隊は順番確認してから入れ!」
以前なら考えられない光景だった。
正門前は、すでに小さな物流拠点になり始めている。
ローク武器屋の前では、簡易掲示板まで設置されていた。
・本日の搬入順
・荷車待機列
・修理受付
・宿空き状況
「……誰がここまでやるって言ったんだ」
ロークが頭を抱える。
「ロークさんです」
カリナが即答した。
「言ってねぇ」
「似たようなことは言いました」
反論できなかった。
広場側では、石畳工事が続いている。
昨日までより、かなり形になってきた。
荷車の揺れも減り、通行速度も上がっている。
「中央は今日中に固定終わりそうですね」
カイが石材を確認しながら言う。
「問題は排水だな」
ロークが地面を見る。
「雨来たら一気に流れるぞ」
「側溝もう少し深くします?」
「そうだな」
二人は完全に現場監督みたいになっていた。
その少し離れた場所。
ミレーヌは蒼月亭前で腕を組んでいる。
「……増えたねぇ」
見ているのは、人の流れだ。
冒険者。
商人。
移住希望者。
旅人。
今では朝から誰かしらが蒼月亭へ来る。
「部屋足りてる?」
セラが聞く。
「足りない」
即答だった。
「最近は相部屋増やしてるよ」
「宿増やした方がいいんじゃない?」
「もう動いてる」
ミレーヌは当然のように答える。
「西側に新しい宿建てる予定」
「早いな……」
フィオが呟いた。
その時。
西門側から少し騒ぎ声が聞こえた。
「また揉めてるにゃ」
ルナが塀の上から覗く。
荷車同士が順番で言い争っているらしい。
「はいはい止める!」
警備隊が入る。
だが以前とは違う。
すぐ収まる。
周囲も慣れてきていた。
「完全に街だなぁ……」
フィオがぽつりと言う。
レンが即座に肘で小突いた。
「言うな」
「痛ぇ」
「また始まるから」
セラが吹き出した。
その頃。
蒼月亭の奥では、ルミアとカリナが資料を広げていた。
「橋補強、やはり必要ですね」
「ええ」
ルミアは地図を見る。
「川辺の村を止めるわけにはいかない」
「ですが、紅陽側工事も継続中です」
「人手不足か」
「深刻です」
カリナは淡々としていた。
「特に木工系」
「職人募集出してる?」
「昨日から」
そこで、扉がノックされる。
入ってきたのはエドガーだった。
「失礼」
「どうしたの?」
ルミアが聞く。
エドガーは少しだけ苦笑した。
「商業同盟側でも話題になっています」
「紅陽が、ですか?」
カリナが視線を向ける。
「ええ」
エドガーは窓の外を見る。
荷車列。
工事。
往来。
動き続ける街。
「“予想以上に成長が早い”と」
静かな声だった。
「同盟内でも、こちらへ拠点を置きたがる商人が増えています」
ルミアは少しだけ笑う。
「いいことじゃない」
「半分は」
エドガーは真面目な顔になった。
「残り半分は、“主導権を握りたい”側です」
部屋の空気が少し変わる。
カリナは静かに資料を閉じた。
「……来ますか」
「時間の問題でしょう」
エドガーは頷く。
「紅陽はもう、“辺境の新興拠点”では済まなくなっている」
その頃。
西門前では、カイがまた荷車を修理していた。
「次から積みすぎ注意ですよ!」
「気を付けます!」
商人が苦笑する。
その後ろでは、次の荷車が順番待ちしていた。
紅陽は止まらない。
止まれない。
流れ続けることで、ここまで来たのだから。
今回は“成長した街を回す”方向へ寄せた回でした。
第二章は、こういう「都市運営感」を強めていこうとも思っています。




