第二章 第十五話 石畳の話
街が広がれば、必要になるものも変わっていきます。
今回の話題は――“道”でした。
昼過ぎの蒼月亭は、少しだけ静かだった。
昼食の波が落ち着き、商人達もそれぞれの仕事へ戻っている。
その奥の大テーブルでは、紅陽の中核メンバーが集まっていた。
机の上には地図。
そして、簡単に描かれた通りの見取り図。
「……荷車増えすぎだな」
ロークが腕を組む。
「最近、車輪修理ばっかだ」
「この前も壊れてましたもんね」
カイが頷いた。
「西門前の石、かなり浮いてましたし」
「雨降るともっと酷い」
レオンが言う。
「ぬかるみで荷車止まる」
レンも地図へ視線を落とした。
「正門から広場まで、人通りが集中しすぎてる」
現在の紅陽は、発展途中だ。
街道から入ると、まず正門。
その正面にロークの武器屋。
さらにその先に広場。
そして奥に蒼月亭。
今まではそれで十分だった。
だが、人と荷車が増えた今、中央通りの負担が限界へ近づいていた。
「つまり?」
ミレーヌが聞く。
ロークは机を指で叩く。
「道を整備する」
少し静かになる。
「石畳だ」
ルミアが小さく目を細めた。
「……ついにそこまで来たのね」
「来ちまったんだよ」
ロークがため息を吐く。
「このままだと物流止まる」
「街道整備は街の血流です」
カリナが即座に言った。
「止まれば全体が鈍る」
その言葉に、全員が少し納得したような顔をする。
今の紅陽は、“流れ”で成り立っている。
人。
物資。
交易。
その全てが道を通る。
「全部やるのか?」
フィオが聞いた。
「無理」
カリナが即答した。
「予算不足です」
現実は早かった。
ルナが机に突っ伏す。
「お金飛ぶにゃー……」
「石材、排水、職人、人員」
カリナは指折り数えていく。
「さらに工事中の交通整理も必要です」
「全部一気にはできないわね」
ルミアが静かに地図を見る。
「まずは中央だけ」
ロークが頷いた。
「正門から広場」
「蒼月亭前まで含める」
カイが少し驚いた顔をする。
「蒼月亭までですか?」
「人集まる場所だからな」
ロークは当然のように言った。
「今やあそこが街の中心だ」
ミレーヌは少しだけ苦笑する。
「宿屋だったんだけどねぇ」
「もう宿屋だけじゃない」
レンがぽつりと言った。
その言葉に、誰も否定しなかった。
蒼月亭は今や、
人が集まり
情報が流れ
商談が起き
帰る場所になっている
紅陽の中心だった。
「予算はどうするの?」
セラが聞く。
そこで、ルミアが静かに口を開く。
「投資よ」
全員の視線が集まる。
「道は金を生む」
ルミアは淡々としていた。
「物流が増えれば、交易量も増える」
「商人も集まる」
「街の価値が上がる」
王族らしい視点だった。
だが。
「その前に金が必要です」
カリナが現実を叩きつける。
「現在の備蓄だけでは不足します」
「じゃあどうするにゃ?」
ルナが聞く。
カリナは資料を机へ置いた。
「三つあります」
指を立てる。
「商業同盟への協力要請」
二本目。
「住民参加型の工事」
三本目。
「段階施工」
レオンが眉を上げる。
「段階?」
「まず最重要区画だけ整備します」
カリナは地図へ線を引いた。
正門。
ローク武器屋前。
広場。
そして蒼月亭まで。
「ここが紅陽の“背骨”です」
静かな声だった。
だが、全員が納得した。
確かにそこへ人も荷車も集中している。
「なるほどな」
ロークが頷く。
「まず中央を固めるわけか」
「はい」
カリナは即答する。
「全部やろうとして全部止まるのが一番悪いです。」
現実的だった。
ルミアは小さく笑う。
「相変わらず堅実ね」
「赤字は嫌いですので」
「夢がないにゃ」
「ルナさんが使いすぎるからです」
「解せぬ」
少し笑いが起きる。
だが、その空気の中にも、確かな実感があった。
紅陽はもう、“生き延びるだけの村”ではない。
道を作る。
街を広げる。
未来を前提に動いている。
窓の外では、荷車がまた一台、正門をくぐっていった。
その車輪は、少し泥に沈みながら軋んでいる。
ロークはそれを見て、小さく呟いた。
「……急がねぇとな」
今回は道路整備計画スタート回でした。
“発展したからこそ必要になるもの”を少しずつ描いていきたいと思っています。




