第二章 第十四話 修理屋の一日
街が広がれば、壊れるものも増える。
そして、それを直す者も必要になるのでした。
西門近くは、朝から騒がしかった。
「うわぁ……派手にやったなぁ」
カイが苦笑する。
街道脇に止まっていた荷車は、完全に片側へ傾いていた。
車輪の木枠が割れ、積荷まで崩れかけている。
「すみません、本当にすみません!」
若い商人が頭を下げる。
「急いでたら石に乗り上げて……!」
「怪我は?」
カイがまず聞いた。
「あ、はい! 自分は大丈夫です!」
「ならよかった」
ロークは壊れた車輪を軽く蹴る。
「……軸までいってるな」
「交換必要ですか?」
「いや、補強すりゃまだ使える」
そう言いながら、ロークは周囲を見る。
以前なら、こんな場所で修理などできなかった。
だが今は違う。
近くには木材置き場。
工具運搬用の小屋。
補修用資材。
紅陽そのものが、少しずつ“街”になっている。
「カイ、支え木」
「はい」
二人は慣れた動きで作業を始める。
荷を下ろし、軸を持ち上げ、割れた部分を確認する。
「荷物、結構積んでますね」
カイが言う。
「ヴェルディア商業同盟向けです!」
商人は少し誇らしげだった。
「最近、向こうとの取引増えてるんで!」
ロークが小さく鼻を鳴らす。
「そりゃ壊れる荷車も増えるわけだ」
その頃。
少し離れた場所では、警備隊が巡回していた。
ダリウスの指導が入ってから、動きはかなり整っている。
「西側問題なし!」
「東通り異常なし!」
以前の紅陽では考えられない声だった。
ルナは柵の上でそれを眺めながら欠伸をする。
「平和にゃー……」
「平和だから見張りが必要なんですよ」
下からカリナの冷静な声が飛んだ。
「うぐ」
「最近、人の出入りも増えています」
カリナは手元の帳簿を確認している。
「商人、移住希望者、職人、旅人」
「管理を始めないと、いずれ混乱します」
「難しい話にゃ……」
「ルナさんが考えなくても大丈夫です」
「それ褒めてる?」
「いいえ」
即答だった。
一方、蒼月亭では。
ミレーヌが朝から戦争をしていた。
「はい次ー!」
「パンまだあるよ!」
「スープ熱いから気を付けな!」
席はほぼ埋まっている。
商人。
冒険者。
職人。
以前の“辺境の宿”とはもう別物だった。
セラはその様子を見ながら少し笑う。
「本当に変わりましたね」
「変わりすぎだろ」
フィオがパンを齧る。
「前、昼寝できたぞここ」
「今やったら踏まれるよ」
レオンが即答した。
レンは静かに窓の外を見る。
修理中の荷車。
往来する人。
新築中の家。
そして、街の外へ続く道。
「流れ、止まってないな」
ぽつりと呟く。
「いいことじゃん」
フィオが言う。
「まぁな」
だがレンは、少しだけ昨日の森を思い出していた。
道ができる。
流れが生まれる。
その裏で、別の流れも動く。
今はまだ小さい。
けれど確実に存在している。
「よし完成だ」
ロークの声が響いた。
西門側。
荷車の車輪は綺麗に補強され、再び真っ直ぐ立っている。
「す、すごい……!」
商人が目を輝かせる。
「これならまだ長く使える」
カイが優しく笑った。
「ただ、積みすぎは駄目ですよ!」
「は、はい!」
ロークは工具を肩へ担ぐ。
「次壊したら料金増やすからな」
「気を付けます!!」
周囲から笑いが起きた。
そんな空気を見ながら、カイは少しだけ空を見上げる。
青空。
響く人の声。
動き続ける街。
昔、自分が知っていた場所とは、もう全然違う。
それでも。
「……いい街になってきましたね」
小さく呟く。
ロークは少しだけ笑った。
「まだ途中だ」
その言葉には、不思議な力があった。
紅陽はまだ完成していない。
だからこそ、前へ進み続けている。
今回は“修理屋カイ”らしい日常回でした。
戦うだけではなく、“街を支える仕事”も第二章ではしっかり描いていきたいと思っています。




