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第二章 第十話 森の奥の痕跡

違和感には、必ず原因があります。

《黎明の風》は、森のさらに奥へ踏み込むことにしました。

翌朝。


森側の村は、薄曇りだった。


空気が重い。


風が弱く、森の匂いだけが静かに流れている。


《黎明の風》の四人は、簡易宿の前で装備を整えていた。


「今日見て、戻るか」


レオンが言う。


「十分情報は集まったしな」


「でも、荷車跡の先は気になる」


セラが小さく言った。


昨日見つけた、不自然な轍。


交易路ではない場所を通る荷車。


そして、妙に静かな森。


レンは地図を折りたたみながら頷く。


「確認だけする」


「深入りは禁止」


「はいはい」


フィオが弓を肩にかける。


「危なかったら逃げる」


「お前が言うと不安なんだよ」


レオンが呆れた。


村を出ると、四人は昨日よりさらに森の奥へ進んだ。


街道から外れる。


獣道。


湿った地面。


途中から、轍はよりはっきりしてきた。


「かなり通ってる」


レンがしゃがみ込む。


「しかも最近」


「人数も多そう」


セラが周囲を見回した。


だが、やはり妙だった。


森が静かすぎる。


魔物の気配は遠い。


こちらを避けるように散っている。


「……まただ」


フィオが低く呟いた。


少し先。


小型魔物がこちらに気付き、すぐ森の奥へ逃げていく。


戦おうともしない。


「普通じゃないな」


レオンも眉をひそめる。


「この辺、縄張り崩れてる」


しばらく進んだその時だった。


「……煙?」


セラが足を止めた。


風に混じって、わずかに焦げた匂いがする。


四人は無言で速度を落とした。


慎重に木々の間を進む。


やがて。


「……あった」


森の開けた場所。


そこには、小規模な野営跡が残っていた。


焚き火跡。


壊れた木箱。


踏み荒らされた地面。


そして、荷車を止めていたと思われる深い轍。


「集積所か」


レンが周囲を確認する。


「長居はしてないな」


「でも何回も使ってる」


フィオが木箱を蹴った。


中は空。


だが、独特の匂いが残っている。


セラがしゃがみ込み、小さく指先で地面を触った。


「……薬剤」


「薬?」


「魔物避け系」


セラは少し顔をしかめる。


「かなり強い。森に残り続けるタイプ」


レオンが周囲を見る。


「だから魔物が避けてたのか」


「うん。多分」


だが、それだけではない。


レンが焚き火跡の近くで何かを拾った。


小さな金属片。


泥に半分埋まっていたそれを、布で拭う。


「……紋章?」


古びた刻印。


どこかの家紋のようにも見える。


だが、一部が削れている。


「どこのだ?」


フィオが覗き込む。


レンは少し目を細めた。


「……古い貴族紋だな」


レオンが受け取り、裏返す。


特に名前はない。


だが妙に重い。


安物ではない。


「持って帰るか」


「そうだね」


セラも頷いた。


その時だった。


フィオが急に森の奥を見る。


「……誰かいる」


空気が変わる。


四人が同時に構えた。


だが。


気配はすぐ遠ざかっていく。


逃げた。


「追う?」


フィオが聞く。


レンは即座に首を振る。


「目的違う」


「ここ確認できれば十分」


レオンも頷いた。


「村と紅陽に報告だな」


違法な流れ。


森の裏道。


そして、魔物避け薬。


誰かが、この森を使っている。


しかも、人目を避ける形で。


四人は野営跡を簡単に記録し、来た道を戻り始めた。


森は相変わらず静かだった。


だが、その静けさはもう自然には感じられない。


何かが動いている。


まだ小さい。


だが確実に。


紅陽から伸びた道の先で、別の流れも生まれ始めていた。

今回は“違和感の正体”へ一歩近づく回でした。

まだ全貌は見えませんが、少しずつ違う世界も動き始めています。

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