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第二章 第五話 道の途中で

紅陽から伸びる道。

それは物資だけではなく、人と想いも繋ぎ始めていました。

翌朝。


まだ朝露の残る時間だというのに、蒼月亭の前はすでに明るかった。


荷物の確認をするレオン。


矢筒を整えるフィオ。


地図を広げるレン。


セラは水筒の蓋を確かめながら、小さく息を吐いた。


久しぶりの遠征。


とはいえ、大規模な討伐ではない。


目的は交易路の確認。


道の状態。


橋。


野営場所。


中継地点。


そして、今後人と物が安全に通れるかどうか。


「準備できたか?」


レオンが振り返る。


「いつでも」


レンが短く答えた。


「セラ?」


「大丈夫」


「フィオは?」


「腹減った」


「まだ朝だぞ」


「だから減った」


真顔だった。


その時、蒼月亭の扉が開く。


「はいはい、待たせたね」


ミレーヌが大きな布袋を抱えて出てきた。


「今日の分のお弁当」


順番に四人へ包みを渡していく。


「煮込みをパンで挟んだやつ。あと、夜食べる分はカリカリに焼いた肉を挟んどいたよ」


「うわ、絶対うまい」


フィオが即反応する。


「今食べるなよ?」


レオンが釘を刺した。


「わかってるって」


たぶんわかっていない。


「後は自分達でなんとかしな」


ミレーヌは腰に手を当てる。


「保存食も水も持ったね?」


「大丈夫です」


セラが答える。


「毛布もありますし、野営道具も問題ありません」


「ならよし」


ミレーヌは満足そうに頷いた。


その後ろから、カイも顔を出す。


「気を付けてくださいね」


いつもの穏やかな声。


「橋とか、無理そうならちゃんと戻ってきてください」


「わかってる」


レオンが軽く手を上げる。


「今回は戦いに行くわけじゃないしな」


「平和確認部隊にゃ」


いつの間にか近くに来ていたルナが言う。


「その名前嫌なんだけど」


「じゃあお弁当護衛隊にゃ」


「もっと嫌だ」


笑いが起きる。


重苦しさはない。


それが今の紅陽らしかった。


「行ってきます」


セラが頭を下げる。


「いってらっしゃい」


ミレーヌが手を振った。


四人はそのまま西へ続く道を歩き始める。


朝の空気は少し冷たく、街の喧騒もまだ遠い。


背後では荷車の音がしていた。


紅陽は今日も動き始めている。


「……なんか、久しぶりだな」


しばらく歩いたあと、レオンがぽつりと言った。


「何が?」


フィオが聞く。


「こういう感じ」


レオンは周囲を見回す。


整備され始めた街道。


新しく切られた木。


荷車の轍。


以前より明らかに人の流れが増えている。


「そういえば前にもお昼持たせてもらった時あったな」


「ああ」


レンが思い出したように頷く。


「ヴェルディアに荷物取りに行った時」


「あの時もこんな感じだったね」


セラが微笑む。


「まだ紅陽も今ほど大きくなかった」


「あの頃は、こんなに人増えるとは思わなかったなぁ」


フィオが空を見る。


「宿も一軒だったし」


「蒼月亭だけだった」


「今じゃ席取り合戦だぞ」


「人気店にゃ」


なぜかルナがいないのに聞こえた気がした。


「……平和が一番だよ」


セラがぽつりと言う。


誰も否定しなかった。


以前なら、遠征は危険と隣り合わせだった。


どこで魔物が出るかわからない。


戻る場所も曖昧だった。


けれど今は違う。


道を確認する。


流れを作る。


街を繋ぐ。


そういう目的で歩いている。


レオンは荷物から小さな板を取り出した。


簡易記録板だ。


「橋の状態、道幅、野営向きの場所……全部記録な」


「荷車の轍も見ておく」


レンが地面を見ながら言う。


「かなり増えてる」


「使われてる証拠ですね」


セラも周囲を見回す。


途中、小川の近くで一度立ち止まり、水場の状態を確認する。


「ここ、休憩地点に使えそう」


「水も綺麗」


「荷車止めるなら木を少し切る必要あるな」


フィオが辺りを見回しながら言った。


戦闘ではない。


だが、やることは多い。


紅陽の外を、“使える道”に変えていく。


それが今回の役目だった。


日が傾き始めた頃。


四人は街道脇の開けた場所へ辿り着いた。


「今日はここだな」


レオンが荷物を下ろす。


「風避けもある」


レンが周囲を確認する。


「見通しも悪くない」


「川も近いですね」


セラが少し安心したように息を吐く。


フィオは早速座り込んだ。


「飯」


「早いって」


「もう限界」


「お前朝も食ってただろ」


「歩いたから消えた」


意味がわからなかった。


それでも、こういうやり取りは嫌いじゃない。


焚き火の準備が始まる。


空は少しずつ赤く染まり、森からは夜の気配が近づいてきていた。


遠征一日目。


まだ何かが起きたわけじゃない。


けれど彼らは確かに、紅陽から伸びる道の途中を歩いていた。

今回は穏やかな遠征初日回でした。

戦闘よりも、“道を繋ぐ旅”としての空気感を大事にしていきたいと思っています。

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