第208話 正式の席
非公式のやり取りは終わり。ここからは“国”として向き合う。
蒼月亭の奥。
臨時に整えられた応接の間。
机を挟み、向かい合う二つの集団。
紅陽側――
ルミア、ミレーヌ、ローク、ダリウス、カイ、そしてカリナ。
対するは――アルヴェリアの使者一行。
先頭の男が口を開く。
「改めて名乗ろう」
落ち着いた声。
「アルヴェリア王国より派遣された交渉官、エルディンだ」
一礼。
形式は整っている。
ルミアが応じる。
「紅陽、外交担当ルミアです」
同じく一礼。
「本日は正式な場として、お話を伺います」
空気が締まる。
エルディンが頷く。
「結構」
一拍。
「まず結論から言おう」
視線が鋭くなる。
「貴地は、既に“拠点”の域を超えている」
ミレーヌが腕を組む。
「ありがたい評価だね」
「評価ではない」
エルディンは淡々と返す。
「事実だ」
一瞬の沈黙。
「戦力」
「生産」
「治安」
指を折る。
「どれも一定水準を超えている」
「放置できる規模ではない」
ロークが笑う。
「で?どうする」
「選択肢は二つ」
即答だった。
「協力関係を結ぶか」
一拍。
「管理下に入るか」
空気が一気に冷える。
ルナがいれば笑っている場面だが――ここにはいない。
静かな緊張。
ダリウスが口を開く。
「後者は却下だ」
短く。
エルディンの目が細くなる。
「即答か」
「当然だ」
視線を外さない。
「ここは誰のものでもねぇ」
ミレーヌも続く。
「面倒は御免だね」
ロークが肩をすくめる。
「縛られる気もない」
場が固まる。
だが。
ルミアは一歩前に出る。
「前者について」
冷静に言う。
「条件を伺います」
エルディンがわずかに口元を緩める。
「話が早い」
「交易の優先権」
「情報共有」
「そして」
一拍。
「有事の際の協力」
カイが小さく呟く。
「重いですね……」
その時。
「一点、確認を」
カリナが口を開く。
全員の視線が集まる。
「その“協力”ですが」
「強制力はありますか?」
エルディンが答える。
「状況による」
「つまり、曖昧です」
即座に切り返す。
空気が変わる。
「その場合」
カリナは続ける。
「貴国の判断で、我々の行動が制限される可能性があります」
一拍。
「それは受け入れられません」
明確な否定。
ミレーヌが小さく笑う。
「いいとこ突くね」
ロークも頷く。
「そこ曖昧にすると面倒だ」
エルディンは少し考える。
「……では、修正しよう」
「協力は要請とする」
「拒否権はそちらにある」
ルミアが頷く。
「それならば検討可能です」
ダリウスが小さく言う。
「縛りはねぇな」
「はい」
カリナが答える。
エルディンが続ける。
「代わりに」
「我々は交易路の確保と安定供給を約束する」
ロークの目が変わる。
「それはデカいな」
ミレーヌも頷く。
「商売が安定する」
ルミアがまとめる。
「対等な協力関係、ですね」
「そうだ」
エルディンが答える。
一拍。
「我々も敵は増やしたくない」
本音だった。
ルミアは少しだけ微笑む。
「同意します」
空気が緩む。
だが。
「ただし」
ルミアが続ける。
「こちらにも条件があります」
エルディンの目が細くなる。
「ほう」
「紅陽の自治への不干渉」
一拍。
「内部への介入は一切認めません」
静かな宣言。
ダリウスが頷く。
ミレーヌもロークも異論はない。
カイも静かに見ている。
カリナは何も言わない。
だが、その目は全体を見ていた。
エルディンは数秒考え――
「……いいだろう」
答える。
「そこまで整っているなら、無理に触れる必要はない」
交渉が成立する。
完全ではない。
だが十分だ。
「では」
ルミアが言う。
「暫定的な協力関係として、合意します」
「異議なし」
エルディンが答える。
一礼。
会談は終わる。
静寂。
ミレーヌが息を吐く。
「疲れるねぇ」
ロークが笑う。
「でも悪くない」
ダリウスが言う。
「上出来だ」
カイが安心したように笑う。
「よかったです」
カリナが最後に言う。
「現状としては、最善です」
ルミアが小さく頷く。
紅陽は――
“認められた”。
それは同時に。
“見られ続ける”ということでもあった。
正式交渉成立回です。ここから紅陽は完全に一勢力として扱われます。




