第204話 巡回の証明
信頼は言葉ではなく、行動で積み重なる。
昼下がり。
紅陽の通りを、警備隊が歩いていた。
「異常なし……ですね」
先頭の若い隊員が言う。
「油断するな」
隣の隊員が返す。
まだぎこちない。
だが確実に“巡回”という形になっていた。
その少し後ろ。
ダリウスが腕を組んで歩く。
無言。
だがそれだけで空気が締まる。
「……見られてますね」
隊員が小声で言う。
周囲の住人や冒険者たちが視線を向けていた。
「当たり前だ」
ダリウスが答える。
「信用はまだねぇ」
一拍。
「だから見られる」
その言葉に、隊員の表情が引き締まる。
その時。
「おい!」
怒鳴り声が響く。
「だから俺の方が先だって言ってんだろ!」
市場の一角。
荷の受け取りで揉めている。
「ふざけんな!」
「割り込んだのはお前だろ!」
人が集まり始める。
空気が悪い。
「……行くぞ」
警備隊が動く。
「やめてください!」
若い隊員が間に入る。
「順番を守って――」
「うるせぇ!」
腕を振り払われる。
「痛っ……!」
「どけ!」
押し合いになる。
収拾がつかない。
「……」
ダリウスが前に出る。
「やめろ」
低い声。
だが二人は止まらない。
「聞こえてねぇのか!」
怒鳴り声。
その瞬間。
ドンッ
二人の間に踏み込む。
腕を掴む。
「ぐっ!?」
「動くな」
静かな声。
だが力が違う。
完全に止まる。
「順番を守れ」
目を見て言う。
逃げ場がない。
「……わ、悪かった」
片方が折れる。
「俺も……」
もう一人も視線を落とす。
ダリウスが手を離す。
「次はねぇ」
短く言う。
二人は無言で頷く。
その場が静まる。
周囲のざわめきも消える。
「……すげぇ」
誰かが呟く。
「一瞬で止めたぞ」
警備隊の隊員たちも息を呑む。
「……ああいうのか」
小声で言う。
「これが……」
ダリウスは振り返る。
「見てただろ」
「はい!」
全員が背筋を伸ばす。
「言葉で止まるならそれでいい」
「止まらねぇなら」
一拍。
「止める」
シンプルだった。
だが本質だった。
「理解したか」
「はい!」
声が揃う。
巡回を続ける。
次の通り。
今度は別の揉め事。
「この場所は俺が使ってたんだ!」
露店の場所取り。
警備隊が前に出る。
「順番は記録されています」
「こちらが先です」
ルールを提示する。
「……ちっ」
相手が舌打ちする。
だが引く。
さっきの一件を見ていた。
無理はしない。
「……助かった」
店主が頭を下げる。
「いえ」
隊員が答える。
少しだけ自信がついた声。
それを見て、ダリウスは何も言わない。
だが。
わずかに頷く。
夕方。
巡回が終わる。
蒼月亭前。
「……どうだった」
ダリウスが聞く。
「まだ足りません」
隊員が答える。
「ですが」
一拍。
「やれます」
その言葉に、ダリウスが頷く。
「そうか」
ルナが笑う。
「にゃはは、様になってきたね」
ロークも言う。
「悪くない」
ミレーヌが腕を組む。
「これなら任せられるね」
通りを人が歩く。
いつも通りの光景。
だが。
「警備隊、ちゃんとしてるな」
「安心できる」
そんな声が聞こえる。
小さな変化。
だが確実なもの。
ダリウスが呟く。
「……これでいい」
守る力は、伝わった。
紅陽は――
“任せられる場所”になり始めていた。




