第202話 広がる街のかたち
人が増えれば、守り方も変わる。
それはもう、村ではなく“街”になるということだ。
紅陽の朝は、以前とは明らかに違っていた。
人の声。
足音。
荷を運ぶ音。
「……増えたな」
ダリウスが呟く。
目の前には、新しく建てられた簡易宿。
さらにその奥には、建設途中の建物。
「もう蒼月亭だけじゃ足りないね」
ミレーヌが腕を組む。
「回しきれない」
ロークも頷く。
「昨日だけで何人増えたと思ってる」
「三十を超えています」
ルミアが即答する。
「このままでは、機能が偏ります」
「だな」
ダリウスが言う。
「宿も飯も、分散させるべきだ」
その言葉にロークが笑う。
「すっかりこっち側だな」
「うるせぇ」
短く返す。
その時。
「おーい!」
声が響く。
「建て終わったぞ!」
振り返ると、冒険者たちが新しい建物の前に立っていた。
「お、早いね」
ミレーヌが笑う。
「何作ったんだい」
「宿だ!」
男が胸を張る。
「簡易だけどな!」
「寝るだけなら十分だ」
中を覗く。
木造の簡素な作り。
だがしっかりしている。
「いいじゃないか」
ロークが頷く。
「これで一つ分散できる」
さらに別の声。
「こっちは食堂だ!」
別の場所。
鍋の匂いが漂う。
「俺らでやってみる」
冒険者の一人が言う。
「マリアンヌさんには負けるけどな」
「当然です」
マリアンヌが即答する。
だがその顔は笑っていた。
「でも、いいですね」
「選択肢が増えます」
村の形が変わっていく。
その様子を、カイが見ていた。
「……すごいですね」
ぽつりと呟く。
「一気に広がってる」
「人が集まれば、そうなる」
ダリウスが言う。
一拍。
「だが」
「問題も増える」
その言葉に、ルミアが頷く。
「治安ですね」
「そうだ」
ダリウスは周囲を見る。
「人が増えりゃ、揉め事も増える」
「守る側が必要だ」
その時。
一人の冒険者が前に出る。
「それなら」
真剣な顔。
「俺たちにやらせてくれ」
周囲が静まる。
「どういう意味だい」
ミレーヌが問う。
「ここに残るって決めた」
男は言う。
「なら、守る側にも回る」
一拍。
「治安維持、俺たちでやる」
ダリウスが見る。
その目は鋭い。
「……できるのか」
試すような問い。
「やる」
即答だった。
「逃げねぇ」
その一言に、空気が変わる。
「俺もやる」
「俺もだ」
次々に声が上がる。
ルナが笑う。
「にゃはは、いいじゃん」
「騎士団ごっこ?」
「ごっこじゃねぇ」
ダリウスが言う。
一歩前に出る。
「やるなら、本気でやれ」
静かだが圧のある声。
「中途半端は許さねぇ」
冒険者たちが息を呑む。
「……はい」
自然と敬語になる。
「よし」
ダリウスが頷く。
「俺が見る」
短く。
「基礎から叩き込む」
ロークが笑う。
「教官役か」
「適任だろ」
ミレーヌも頷く。
「決まりだね」
ルミアがまとめる。
「では」
「治安維持組織を設立します」
「仮称、“紅陽警備隊”」
その言葉に、場が締まる。
ただの集まりではない。
組織になる。
「いい名前だね」
カイが笑う。
ダリウスは小さく頷く。
「……悪くねぇ」
その時。
遠くから子供の声が聞こえる。
走り回る。
笑っている。
ダリウスはそれを見る。
「……守るもんが増えたな」
ぽつりと呟く。
カイが答える。
「はい」
一拍。
「だから強くなります」
ダリウスは少しだけ口元を緩める。
紅陽は変わる。
人が集まり。
役割が生まれ。
街になる。
もう後戻りはない。
村→街へ変わっていきます。




