第201話 増える人、増える責任
人が集まるということは、守るものが増えるということだ。
翌朝。
蒼月亭の前は、いつもより騒がしかった。
「……多いな」
ダリウスが腕を組む。
視線の先には――人、人、人。
冒険者たちが列を作っていた。
「昨日の件で、一気に増えましたね」
ルミアが冷静に言う。
「評価が上がった証拠です」
「にゃはは、人気だねー」
ルナが笑う。
「……笑い事じゃないですよ?」
セラが少し困った顔をする。
「対応が追いつきません……」
その通りだった。
道具屋も。
パン屋も。
食堂も。
全てがフル稼働。
「パンもうねぇのか!?」
「すみません、次の焼き上がりまでお待ちください!」
ベルンが声を張る。
「これ全部対応するのか……」
ロークが呟く。
「やるしかないな」
ミレーヌが腕を組む。
「人が増えるってのはそういうことだよ」
一拍。
「ルールが必要だね」
ルミアが頷く。
「はい」
「現状のままでは、いずれ破綻します」
その言葉に、全員の意識が変わる。
「じゃあどうする?」
カイが聞く。
ルミアは少し考える。
そして。
「三つ提案します」
指を立てる。
「一つ、滞在区画の整備」
「宿泊場所を分け、収容人数を明確化します」
ロークが頷く。
「管理しやすくなるな」
「二つ、利用ルールの制定」
「食事、修理、施設利用の優先順位を決めます」
ミレーヌが笑う。
「やっとそれっぽくなってきたね」
「三つ」
一拍。
「定住希望者の選別です」
空気が少し変わる。
「選ぶのか?」
レンが聞く。
「はい」
ルミアは即答する。
「全てを受け入れることはできません」
「維持できなくなります」
ダリウスが頷く。
「正しい」
短く。
「守れねぇなら意味がねぇ」
その言葉に重みがある。
「じゃあ誰を残す?」
ロークが聞く。
ルミアは答える。
「技術、戦力、協調性」
「この三つです」
カイが小さく頷く。
「いいと思います」
その時。
「おーい!」
外から声。
一人の冒険者が手を挙げている。
「俺、ここに残りたいんだが!」
周囲がざわつく。
「俺もだ」
「俺も考えてる」
一気に声が増える。
ルナが笑う。
「にゃはは、モテモテだね」
「違います!」
セラが否定する。
ミレーヌが前に出る。
「聞こえてるよ」
腕を組む。
「だがな」
一拍。
「ここは宿じゃない」
「“場所”だ」
静かに言う。
「残るなら、それなりの覚悟を見せな」
空気が締まる。
冒険者たちの表情が変わる。
軽い気持ちではない。
そう理解する。
ダリウスが横で言う。
「守られるだけの場所じゃねぇ」
「守る側に回れ」
その一言で、さらに重みが増す。
「……」
誰もすぐには答えない。
だが。
その沈黙は――逃げではなかった。
考えている。
本気で。
ルミアが小さく頷く。
「まずは、今日の仕事をこなしてください」
「それが判断材料になります」
現実的だった。
「……わかった」
一人が答える。
「やる」
その一言を皮切りに。
空気が変わる。
「手伝う!」
「俺もだ!」
自然と人が動き出す。
畑へ。
工房へ。
店へ。
紅陽の中に、人が入り始める。
カイがその様子を見る。
「……すごいですね」
ダリウスが言う。
「まだ途中だ」
一拍。
「ここからが面倒だぞ」
ロークが笑う。
「望むところだ」
ミレーヌも笑う。
「忙しくなるねぇ」
ルナが伸びをする。
「にゃはは、楽しくなってきた!」
紅陽は変わる。
人が増え。
役割が生まれ。
責任が増える。
それでも。
前に進むしかない。
ここはもう――
“ただの村”ではないのだから。




