第200話 守られる場所
強さは恐れられるためではない。
人を留めるためにある。
魔物の群れが去った後。
紅陽には、妙な静けさが残っていた。
「……終わった、のか」
冒険者の一人が呟く。
「嘘だろ……あの数だぞ」
別の男が地面を見る。
倒れた魔物の数。
だが――
村の被害は、ほとんどない。
「負傷者、軽傷が数名です」
セラが報告する。
「重傷者はいません」
ルミアが頷く。
「上出来です」
その言葉に、冒険者たちが顔を見合わせる。
「上出来……?」
「これでか?」
ルナが笑う。
「にゃはは」
「もっとひどいの想像してた?」
誰も否定できない。
ダリウスが短く言う。
「ここは守れる」
それだけだった。
だが、その一言が重い。
その後。
自然と人の流れが変わる。
「……おい」
一人の冒険者が声をかける。
「武器、見てもらえるか?」
向かった先は――道具屋。
「はい、こちらへ」
店主が応じる。
「さっきの戦いで刃が欠けてますね」
手際よく確認する。
「すぐ直せますよ」
「マジか……」
男が驚く。
「こんなすぐに?」
「ええ」
淡々とした対応。
だが確かな技術。
別の場所。
パン屋。
「焼きたてですよー!」
ベルンの声が響く。
「さっき戦ったばっかなのに元気だな……」
冒険者が呟く。
パンを受け取る。
一口。
「……うまっ」
思わず声が出る。
「だろ?」
ベルンが笑う。
「うちは素材が違うからな」
畑で育てた小麦。
それがそのまま味に出る。
「これは……売れるな」
「売ってるんだよ!」
笑いが起きる。
さらに。
食堂。
「こちらどうぞ」
マリアンヌが料理を運ぶ。
湯気の立つ皿。
「戦いの後は、温かいものがいいですよ」
優しい声。
「……助かる」
冒険者が肩を落とす。
一口食べる。
「……なんだここ」
ぽつりと呟く。
「普通にうまい」
「普通じゃ困るんだけどね」
マリアンヌが微笑む。
工房では。
「防具、かなり傷んでますね」
ガルドが言う。
「これ、放っておいたら危なかったですよ」
「そんなにか?」
「ええ」
工具を手に取る。
「今のうちに直しておきます」
「頼む」
手慣れた動き。
無駄がない。
冒険者はその様子を見ていた。
「……なんか」
ぽつりと呟く。
「全部揃ってんな」
夕方。
蒼月亭。
自然と冒険者たちが集まる。
「なぁ」
一人が言う。
「ここ、拠点にしねぇか?」
「は?」
別の男が見る。
「冗談だろ?」
「いや」
真剣だった。
「守られてるし」
「飯はうまいし」
「装備も整う」
一拍。
「こんな場所、そうそうねぇぞ」
沈黙。
誰もすぐには否定しない。
「……確かにな」
別の男が頷く。
「今までの拠点より、よっぽどいい」
その会話を、ロークが聞いていた。
「増えるね」
ミレーヌに言う。
「ああ」
ミレーヌが笑う。
「いいことだ」
「でも管理は面倒になるよ?」
「そこは俺の仕事だ」
頼もしい返答。
その時。
ダリウスが店内を見ていた。
人の流れ。
笑い声。
活気。
「……変わったな」
小さく呟く。
カイが横に来る。
「はい」
頷く。
「少しずつですが」
ダリウスは腕を組む。
「守る価値がある」
その言葉に、カイは笑う。
「だから守ったんですよね」
「……ああ」
短く返す。
蒼月亭の灯りがともる。
人が集まり。
人が残る。
紅陽は――
“守られる場所”になっていた。




