第197話 価値の交渉
力を示すだけでは足りない。
価値を理解させてこそ、守れるものがある。
蒼月亭の外。
昼の喧騒から少し離れた場所で、三人は向かい合っていた。
ルミア、ダリウス、そして――アルヴェリアの使者。
「我々は評価に来た」
使者が繰り返す。
「この地が、敵か味方か」
ルミアはわずかに首を振る。
「その二択ではありません」
静かな否定。
「我々は、どちらでもない」
使者の目が細くなる。
「中立を気取るか」
「違います」
ルミアは一歩踏み出す。
「“選ぶ側”です」
一瞬、空気が止まる。
使者は興味を持ったように口元を緩めた。
「ほう」
「立場を理解していないわけではなさそうだ」
ダリウスが横から言う。
「回りくどいのはやめろ」
「何を見に来た」
使者は視線をダリウスに向ける。
「……率直だな」
「嫌いじゃない」
一拍。
「三つだ」
指を立てる。
「戦力」
「継続性」
「価値」
「それを見に来た」
ルミアが頷く。
「では、答えます」
「戦力」
一瞬だけダリウスを見る。
「既にご覧の通りです」
ルナがにやりと笑う。
「にゃはは、足りてるでしょ?」
使者も小さく笑う。
「確かに」
「一騎当千が複数いる」
「厄介だ」
次。
「継続性」
ルミアは蒼月亭の方を見る。
「畑、鍛冶、食料、流通」
「すべて自立し始めています」
「つまり」
「消耗しない拠点です」
使者の目が鋭くなる。
(そこまで見ているか)
「最後に」
ルミアが言う。
「価値」
一拍。
「我々は奪う側ではありません」
「共に在ることで利益を生みます」
静かな言葉。
だが重い。
使者は腕を組む。
「……理想論に聞こえるな」
「でしょうね」
ルミアは否定しない。
「ですが」
「奪い合うより、長く続きます」
沈黙。
風が流れる。
使者はゆっくりと息を吐いた。
「……面白い」
素直な感想だった。
「ここまで形になっているとは思わなかった」
ダリウスが口を開く。
「で?」
「結論は」
使者は視線を上げる。
「敵ではない」
一拍。
「少なくとも、今は」
ルナが笑う。
「にゃはは、“今は”ね」
「当然だ」
使者も笑う。
「価値がなくなれば、変わる」
正直だった。
ルミアは頷く。
「構いません」
「我々も同じです」
互いに理解する。
それが一番早い。
「では」
使者が一歩下がる。
「本日はこれで失礼する」
「いずれ、正式な形で来ることになるだろう」
ルミアが軽く頭を下げる。
「お待ちしております」
使者は振り返る。
「一つだけ」
「はい」
「名を聞いておこう」
ルミアは答える。
「ルミアです」
一瞬の間。
使者の目がわずかに変わる。
「……覚えておく」
そのまま去っていく。
静寂が戻る。
ルナが伸びをする。
「終わったー」
ダリウスが言う。
「……上出来だ」
ルミアは小さく息を吐く。
「最低限は」
カイが後ろから来る。
「どうでしたか?」
「問題ありません」
ルミアが答える。
「少なくとも、敵にはなりません」
カイが安心したように笑う。
「よかった」
ダリウスは空を見上げる。
「……次は“正式”だな」
「はい」
ルミアが頷く。
紅陽は、外の世界に認められ始めていた。
もう“ただの村”ではない。
一つの勢力として。
確実に。




