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第196話 商人の顔

本物は、隠そうとしても滲み出る。

蒼月亭の昼は、今日も賑わっていた。


「パン追加お願いしまーす!」


「今行くにゃ!」


慌ただしい中、例の商人たちは静かに席についていた。


三人。


目立たない服装。


だが――


「……」


ルミアは視線を外さない。


「どうされましたか?」


セラが小声で聞く。


「いえ」


ルミアは微笑む。


「少し、気になるだけです」


その時。


「すまん、注文いいか?」


商人の一人が声をかける。


「はい」


アリアが対応する。


「おすすめはあるか?」


「本日はシチューがおすすめです」


「ではそれを三つ」


普通のやり取り。


だが。


「……」


ルミアは違和感を捉えていた。


(無駄がない……)


言葉も、動きも。


商人にしては洗練されすぎている。


その横で。


「にゃはは」


ルナが近づく。


「初めて見る顔だね」


軽い調子。


だが目は笑っていない。


「旅の商人だ」


男が答える。


「へぇ」


ルナは椅子の背に手を置く。


「どこから?」


「西の方だ」


曖昧な答え。


「ふーん」


一歩だけ近づく。


「……強いでしょ?」


男の目がわずかに動く。


一瞬だけ。


だが確かに反応した。


「何の話だ」


「にゃはは」


ルナは笑う。


「なんでもないよ」


そのまま離れる。


だが。


「……」


男はルナを見ていた。


完全に油断していない。


――その様子を。


店の奥からダリウスが見ていた。


「……商人、ね」


小さく呟く。


ロークが横に来る。


「どう見る?」


「商人じゃねぇな」


即答。


「足運びが兵だ」


「しかも訓練されてる」


ロークが笑う。


「やっぱりか」


「最近増えてるな」


「ああ」


ダリウスは頷く。


「様子見だ」


「紅陽を測りに来てる」


一方、店内。


料理が運ばれる。


「お待たせしました」


セラが皿を置く。


「ありがとう」


男が言う。


一口食べる。


「……美味いな」


本音だった。


「ありがとうございます」


セラが嬉しそうに答える。


だが。


「……」


男の視線は別の場所にあった。


鍛冶場。


畑。


人の流れ。


全てを見ている。


(間違いないな)


男の内心。


(ここはただの村じゃない)


(拠点だ)


(しかも……機能している)


その時。


「失礼します」


ルミアが近づく。


「少し、お話よろしいでしょうか」


丁寧な口調。


だが逃げ道はない。


男がルミアを見る。


一瞬。


互いに理解する。


「……いいだろう」


席を立つ。


「少し外で」


「はい」


二人は外へ向かう。


その背を、ルナが見送る。


「にゃはは」


「当たりだね」


ダリウスが立ち上がる。


「……行くか」


「見に行くの?」


「念のためだ」


外へ。


静かな空気。


ルミアが先に口を開く。


「商人、ではありませんね」


直球だった。


男は少しだけ笑う。


「……なぜそう思う」


「視線です」


「物を見る目が違います」


一拍。


「そして」


「隠す気も、あまりない」


男は肩をすくめる。


「そこまでか」


観念したように息を吐く。


「……アルヴェリアの者だ」


静かな告白。


「正式な使者ではない」


「だが、それに近い」


ルミアは頷く。


「やはり」


その時。


「話は聞かせてもらおうか」


ダリウスが現れる。


男の目が細くなる。


「……誰だ」


「通りすがりだ」


短く返す。


だが空気は完全に変わった。


男は理解する。


(強い)


一瞬で判断する。


ルナも顔を出す。


「にゃはは、やっぱりそうだったね」


男は苦笑する。


「……面白い場所だな」


ルミアが言う。


「本題を」


男は頷く。


「我々は評価に来た」


「この地が」


「敵か、味方か」


静かな言葉。


だが重い。


紅陽は今――


外の世界から“見られている”。

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