↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
195/274

第195話 広がる日常

平和とは、静かな時間ではなく、積み重なる営みのことだ。

朝の紅陽は、賑やかだった。


蒼月亭の外では、既に人の動きが始まっている。


「水、もう少し欲しいにゃー!」


ルナの声が畑から響く。


「今持っていきます!」


セラが桶を運ぶ。


広がり始めた畑には、見慣れない作物も増えていた。


「……順調ですね」


ルミアが土の様子を見ながら言う。


「はい」


カリナが頷く。


「この土壌なら、もう少し種類も増やせます」


「にゃはは、食べ物増えるのはいいことだよね」


ルナは楽しそうに土を踏む。


その横で。


「踏まないでください!」


アリアが慌てて止める。


「えー?」


「えー、じゃありません」


そんなやり取りに、小さく笑いが起きる。


一方、鍛冶場。


カン、カン、と一定の音が響いている。


カイが鉄を打っていた。


「……火、少し弱めますか」


レンファが様子を見て言う。


「いえ、このままで大丈夫です」


カイは集中したまま答える。


その後ろで、ダリウスが腕を組んで見ていた。


「……変わったな」


ぽつりと呟く。


「そうですか?」


「修理屋の音じゃねぇ」


ダリウスは言う。


「完全に鍛冶屋だ」


カイは少しだけ笑う。


「やっと、です」


一拍。


「オヤジの背中、まだ遠いですけど」


ダリウスは鼻で笑う。


「一生届かねぇよ」


「え?」


「だから追い続ける価値がある」


短く言う。


カイは一瞬驚き、そして頷いた。


「……はい」


鍛冶場の熱気が、静かに続く。


その頃、蒼月亭の中。


「焼きたてです!」


パン屋の窯から、いい香りが広がる。


「おお、今日は多いな」


ロークが笑う。


「最近、客増えてるからね」


ミレーヌが答える。


並べられるパンは、以前より種類も多い。


「これも紅陽産です」


セラが説明する。


「畑の小麦を使ってます」


客が頷く。


「美味いわけだ」


その横では食堂も賑わっていた。


「今日のおすすめは?」


「シチューです」


アリアが答える。


「野菜たっぷりですよ」


「いいね、それ」


注文が増える。


「忙しいにゃー!」


ルナが笑う。


だがその動きは速い。


すでに“店の一員”として馴染んでいた。


ルミアはその様子を見ていた。


「……変わりましたね」


小さく呟く。


「え?」


セラが振り返る。


「いえ」


ルミアは微笑む。


「いい変化です」


外から見ても、それは明らかだった。


紅陽は“拠点”ではなくなっている。


人が集まり、物が動き、価値が生まれている。


一つの“街”になり始めていた。


その時。


入口の扉が開く。


「いらっしゃいませ」


セラが声をかける。


入ってきたのは、数人の男。


商人風の格好。


だが。


「……」


ルミアの視線が止まる。


一瞬だけ。


「どうされましたか?」


カリナが小声で問う。


「いえ」


ルミアは目を逸らす。


「少し、気になっただけです」


男達は店内を見回す。


客として自然に振る舞っている。


だがその視線は――


明らかに“測っていた”。


席につく。


何も起こらない。


だが。


「……」


ルミアは確信する。


(ただの商人ではありませんね)


その頃、外。


ダリウスも同じ方向を見ていた。


「……増えてきたな」


低く呟く。


紅陽の日常は、確かに広がっている。


そしてそれは――


外の世界に見つかり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。