第183話「蒼月亭、てんてこ舞い」
守った場所には、人が集まる。
人が集まれば――当然、忙しくなる。
蒼月亭。
昼前だというのに、すでに満席だった。
「エール三つ追加ー!」
「はいはーい!」
セラが慌てて運ぶ。
「ちょ、待って!そっちまだ!」
アリアが別の卓へ走る。
「煮込みもう一つ!」
「今持ってくにゃ!」
ルナが皿を持って走る――が。
「おい、それ違う卓だ!」
レンがツッコむ。
「あ、ほんとだ」
「にゃはは」
「笑ってる場合か!」
■ カオス
「部屋空いてるか!?」
「二階奥、三部屋空いてるよ!」
ミレーヌが即答。
「案内するよー!」
ルミアが滑らかに動く。
無駄がない。
「こちらになります」
扉を開ける動作まで完璧。
「……すげぇな」
冒険者が思わず呟く。
■ カリナ
「お食事、お持ちいたしました」
音もなく皿を置く。
姿勢、動き、視線。
すべてが整っている。
「……あんた、本当に給仕か?」
客が聞く。
「はい」
一切揺れない返答。
「そうか……」
だが、その場にいた何人かは違和感を覚えていた。
■ 裏側
「人増えすぎだろ……」
レンが息をつく。
「昨日のせいだな」
レオンが言う。
「青白い剣の噂、広がりすぎ」
ロークが笑う。
「いいじゃねぇか」
「客が増えるのは歓迎だ」
ミレーヌ
「仕入れが追いつかないんだよ!」
「それも調整するさ」
■ ルナ
「疲れたにゃ」
カウンターに突っ伏す。
「まだ昼だぞ」
「やだ」
「戦う方が楽」
「問題発言だなそれ」
■ ルミア(違和感①)
ふと、ルミアの視線が動く。
入口。
一人の男。
「……」
ほんの一瞬だけ。
空気が変わる。
「……どうかした?」
セラが聞く。
「いえ」
すぐに笑顔に戻る。
「何でもありません」
だが――
その視線は一瞬だけ“鋭かった”。
■ カリナ(違和感②)
「……」
カリナも同じ男を見る。
わずかに、指が止まる。
「……見られております」
小さく、ルミアにだけ聞こえる声。
「ええ」
「わかっています」
すぐに通常動作へ戻る。
■ ルナ&リディア
そのやり取りを、少し離れて見ている二人。
ルナ
「……隠す気あるのかな?」
リディア
「……ある」
「あるんだ?」
「少なくとも、そう見せている」
ルナが笑う。
「にゃはは」
「バレてるのにね」
「……問題ない」
リディアの目が細くなる。
「今は、な」
■ カイ&ミレーヌ
カイが少し離れた席から様子を見る。
「忙しいね」
「嬉しい悲鳴だよ」
ミレーヌが言う。
「でもね――」
一拍。
「増えすぎると、変なのも混ざる」
「……うん」
カイも頷く。
「流れが変わったから」
■ 客(違和感③)
「なぁ、この村さ」
一人の客が言う。
「最近できたんだろ?」
「そうだよ」
レンが答える。
「へぇ……」
「ダンジョンまでの距離、どれくらいだ?」
「……何だ急に」
「いや、ちょっと気になってな」
「普通は自分で行って測るだろ」
「だよなぁ」
笑ってごまかす。
だが――
その目は笑っていなかった。
■ 締め
夕方。
ようやく一段落。
「終わった……」
セラが座り込む。
「まだ夜があるぞ」
レオンが言う。
「やだ……」
ルナ
「にゃはは」
「頑張れ」
「お前もやれ!」
笑いが広がる。
だがその裏で――
ルミアが静かに窓の外を見る。
「……」
カリナが隣に立つ。
「増えております」
「ええ」
小さく頷く。
「確実に」
視線の先。
見えない“何か”が動いていた。
日常は戻った。
だが――同じ日常ではない。




