第184話「増えるもの、見えないもの」
賑わいは表に現れる。
だが、本当に増えているものは――見えない場所にある。
蒼月亭の朝。
「今日も多いね……」
セラが窓の外を見て呟く。
表通りには、すでに人の流れ。
冒険者、商人、荷馬車。
「昨日より増えてる」
フィオが静かに言う。
「流れが完全に変わった」
「いいことなんだけどねぇ」
ミレーヌが腕を組む。
「管理できる範囲を超えると厄介だよ」
ロークが笑う。
「だから俺がいるんだろ?」
「調整役ってやつだ」
「頼むよ」
■ 新しい動き
「店、出していいか?」
昼前。
ロークが連れてきた行商人が言う。
「雑貨屋だ」
「この流れならやれる」
ミレーヌが目を細める。
「信用できるのかい?」
「できる」
「俺の知り合いだ」
「ならいいよ」
「うちも助かるしね」
「よし、決まりだな」
村が“形”になり始めていた。
■ 裏での違和感
「……」
ルミアが店内を見渡す。
人の動き。
視線。
会話。
「……三人」
小さく呟く。
カリナが横に立つ。
「確認済みです」
「入口付近に一名、奥に二名」
「いずれも同系統」
「ええ」
「……調査目的ですね」
「にゃはは」
後ろから声。
ルナ。
「バレバレだね」
ルミアは振り返る。
「……何のことでしょう」
「隠さなくていいよ」
軽く笑う。
「こっちもわかってるから」
一瞬の間。
リディアが横に立つ。
「……騒ぐな」
「今はまだ“客”だ」
「そうだね」
ルナが肩をすくめる。
■ カイの視点
カイはカウンターから全体を見ていた。
「……」
「どうだい?」
ミレーヌが聞く。
「増えてるね」
「人も……目的も」
「嫌な感じかい?」
「ううん」
小さく笑う。
「動き出しただけ」
■ ルミア(違和感深化)
その時。
一人の客がルミアに声をかける。
「ねぇ」
「この村、最近できたんだよね?」
「はい」
「ダンジョンまでの距離ってどれくらい?」
「……そうですね」
一瞬だけ間。
「個人差があります」
「は?」
「歩く速度、装備、目的によって変わりますので」
「……そういうこと聞いてんじゃねぇんだが」
笑いながら言う。
だが――
ルミアは一歩も引かない。
「申し訳ありません」
「正確でない情報はお答えできません」
完全に防いだ。
客が少しだけ目を細める。
「……そうか」
そのまま引く。
だがその瞬間。
ルナが小さく呟く。
「今の、完全に探ってたね」
「ええ」
ルミアが静かに答える。
「明確に」
■ カリナ(警戒強化)
「……数が増えております」
「このままでは」
「わかっています」
ルミアが小さく頷く。
「ですが――」
視線がカイ達に向く。
「まだ、動く段階ではありません」
■ 外(小さな変化)
村の外れ。
新しい建物の修理が始まっている。
道具屋。
人の声。
活気。
だが、その奥。
森の影。
「……確認した」
低い声。
「対象、複数」
「戦力も高い」
別の声。
「例の報告通りか」
「……ああ」
一瞬の沈黙。
「では、次に進む」
■ 締め
夕方。
蒼月亭。
また人が増えている。
「今日も終わらねぇな……」
レンが呟く。
「いいことだろ」
レオンが言う。
「まぁな……」
ルナが笑う。
「賑やかでいいじゃん」
「守る価値あるでしょ?」
リディアが静かに言う。
「……ああ」
短い肯定。
その上。
壁の上段。
一本の剣が、静かにそこにある。
“守った証”は、すでに見える場所にあった。
だが――
守るべきものは、確実に増えていた。
増えたのは人だけではない。
“狙うもの”もまた、増えている。




