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第179話「三人の遠征」

すべてを動かす必要はない。

必要な場所に、必要な力を置けばいい。

蒼月亭の朝。


珍しく、全員が揃っていた。


「ダンジョンの奥が変だって話だ」


ロークが言う。


「戻ってきた連中が口揃えて言ってる」


「魔物の質が変わってるってな」


ミレーヌが腕を組む。


「放っておくと面倒になるね」


「だな」


レンが周りを見る。


「でも全員で行くわけにはいかないだろ?」


リディアが短く答える。


「拠点は空けられない」


「……だよな」


一瞬、静かになる。


ルナが軽く手を上げる。


「じゃあ、私行くにゃ」


「あと二人いれば十分でしょ」


「軽く言うな」


レンが苦笑する。


「誰連れてく?」


「フィオとセラ」


即答。


フィオが頷く。


「問題ない」


セラも小さく。


「……うん」


リディアがルナを見る。


「私は残る」


「好きにゃ」


ルナが笑う。


「そっちの方が安心だし」


ミレーヌがまとめる。


「決まりだね」


「三人で様子見」


「無理はするんじゃないよ」


その時。


「……ちょっと待って」


レンファが奥から出てくる。


小さなケースを手にしていた。


「これ、持っていって」


三人の前に差し出す。


中には、小瓶が二つ。


「ハイポーションと……エリクサー」


「一本ずつ」


ルナが眉を上げる。


「そこまでいる?」


レンファは少しだけ困ったように笑う。


「“念の為に”だよ」


「今回、いつもと違うみたいだし」


フィオが静かに受け取る。


「……ありがたい」


セラも両手で持つ。


「……うん、大事に使う」


ルナが肩をすくめる。


「まぁ、使うことないと思うけどね」


「それが一番いい」


レンファが優しく言う。


「使わずに戻ってくるのが」


カイも頷く。


「危ないと思ったら、すぐ戻ってきて」


「わかってるにゃ」


軽い返事。


だが、その目は冷静だった。


■ ダンジョンへ


黒影洞へ続く道。


「静かだね」


フィオが言う。


「気配、少ない」


「逆だね」


ルナが答える。


「奥に溜まってる」


セラが小さく呟く。


「……濃い」


「魔素」


洞窟の入口。


空気が重い。


「行くにゃ」


三人が中へ入る。


■ ダンジョン内部


暗い。


湿った空気。


フィオが小太刀に触れる。


スゥ……


青白い光。


「視界、確保」


「来るよ」


ルナが言う。


影が飛び出す。


魔物。


「遅い」


スゥ――


一閃。


崩れる。


「……硬いね」


「前より強い」


セラが地面に手を当てる。


スゥ……


「止める」


動きが鈍る。


「いいね」


ルナが踏み込む。


スゥ――


まとめて斬る。


奥へ進む。


「……増えてる」


フィオが呟く。


「配置もおかしい」


「……ああ」


ルナの目が細くなる。


「並んでるね」


「誰かが動かしてる」


その時。


重い気配。


「来る」


現れたのは大型個体。


魔素が濃い。


「ちょっとは楽しめそう」


ルナが笑う。


スゥ……


剣が強く光る。


「セラ、止めて」


「……うん!」


スゥ……


足止め成功。


「フィオ」


「任せて」


ヒュンッ!


弱点を射抜く。


「今」


ルナが踏み込む。


スゥ――


一閃。


深く斬る。


だが――


「……まだか」


二撃目。


スゥ――


崩れる。


静寂。


ルナが止まる。


「……違うね」


「これ、自然じゃない」


フィオが周囲を見る。


「痕跡、ある」


セラ

「……外から」


ルナが笑う。


「にゃるほど」


「面白くなってきた」


■ 同時刻:紅陽


蒼月亭。


リディアが静かに座る。


「……」


ミレーヌ

「どうだい?」


「問題ない」


「だが――」


一拍。


「こちらも来る」


扉が開く。


見慣れない男。


「……宿を」


言葉が止まる。


リディアと目が合う。


空気が変わる。


ロークが小さく笑う。


「こっちも動いたな」


■ 引き


ダンジョン。


「帰る?」


フィオが聞く。


「いや」


ルナが奥を見る。


「もう少し進む」


セラ

「……うん」


三人は進む。


ポーションは、まだ使われていない。


だが――


“必要になる可能性”だけは、確実に近づいていた。

備えは使わないのが理想。

だが、あるから進める。

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