第173話「鍛造の火」
流れを読む者は、素材の中に未来を見る。
そして――同じ“性質”に気付いた時、世界は一段変わる。
蒼月亭の裏手。
荷馬車から降ろされた資材の山を前に、カイは一つの金属塊に手を伸ばした。
「……これは」
持ち上げる。
重さを確かめ、指先でなぞる。
「どうした?」
レンが覗き込む。
「珍しいのか?」
カイは少しだけ考えてから答える。
「珍しい、というより……」
「ここにあるのが不思議、かな」
ロークが後ろで笑う。
「北方の合金だ」
「流れてきたんだよ」
カイは小さく頷く。
「うん……」
「でも、これ――」
少しだけ目を細める。
「普通に使うのは、もったいないね」
「……どういう意味だ?」
レオンが聞く。
カイは塊を軽く叩く。
「魔力の通りがいい」
「かなり」
「……それって強い武器になるってことか?」
レンが言う。
カイはゆっくり首を横に振る。
「“強い”だけじゃない」
一拍。
「“流せる”」
「……?」
その言葉に、リディアの視線がわずかに動く。
「魔力を……通す?」
「うん」
カイは優しく頷く。
「今まではね、武器の方が魔力に合わせてた」
「でもこれは――」
「逆ができる」
「使う側に、合わせられる」
その瞬間。
「……待て」
リディアが一歩前に出る。
全員の視線が集まる。
「それは――」
わずかに目を細める。
「魔力の流れを“受けて通す”だけではないな」
「干渉もできるはずだ」
カイが少し驚いた顔をする。
「……うん」
「たぶん、できると思う」
リディアの視線が、金属に落ちる。
「……まさか」
一瞬の間。
「作れるのか?」
その声は、珍しく揺れていた。
ルナが横で小さく笑う。
「珍しい顔してるね」
リディアは答えない。
ただ、素材を見ている。
「……この性質は」
「私の剣と、同じだ」
空気が止まる。
レンが聞き返す。
「同じって……」
「魔力を通し、干渉し、崩す」
「本来は、特殊な製法でしか再現できない」
「……それが」
ゆっくりと顔を上げる。
「この素材なら、可能性がある」
カイは少し考え込む。
「……完全に同じにはならないかもしれない」
「でも」
「近づけることは、できると思う」
その言葉に、リディアは静かに息を吐く。
「……そうか」
短い返事。
だが、その目は明らかに変わっていた。
ルナが軽く肩をすくめる。
「じゃあ決まりだね」
「作ろうよ」
「それ、絶対面白い」
レンも笑う。
「だな」
「やるしかないだろ」
ロークがニヤリとする。
「素材も揃ってる」
「時間も今ならある」
ミレーヌが頷く。
「やるなら今だね」
カイは少しだけ周囲を見る。
全員の視線が向いている。
「……」
ほんの一瞬、迷う。
だが――
「じゃあ」
小さく笑う。
「やってみようか」
鍛冶場。
火が入る。
炎が揺れる。
金属が赤く染まる。
カン、カン、カン……
いつもと同じ音。
だが――
違うのは、全員がそれを見ていることだった。
リディアは、動かない。
ただ、じっと見ている。
ルナが小さく呟く。
「期待してるね」
「……ああ」
短く答える。
「これは」
「無視できない」
時間が流れる。
何度も熱し、叩き、整える。
「……うん」
カイが小さく頷く。
「試してみようか」
一本の剣が姿を現す。
まだ粗い。
だが――
「……」
空気が違う。
レンが手を伸ばす。
「持っていいか?」
「うん」
受け取る。
「……軽いな」
「でも、抜ける感じがある」
「魔力、流してみて」
「こうか――」
次の瞬間。
「っ!?」
レンの目が見開く。
「なんだこれ」
「……止まらない」
ルナが奪い取る。
「貸して」
軽く振る。
スッ
地面が音もなく裂ける。
「いいね」
満足そうに笑う。
「これ、好き」
カイが少し安心したように息を吐く。
「よかった」
「まだ、調整できると思う」
「それぞれに合わせて」
リディアが静かに近づく。
剣を見つめる。
「……なら」
一拍。
「一本、頼む」
カイが頷く。
「もちろん」
「あなたに合わせて、作るよ」
リディアは小さく頷いた。
火は消えない。
紅陽に、“新しい系統の力”が生まれ始めていた。
同じ性質が揃った時、
戦い方そのものが変わる。




