第172話「対価」
対等であることに、代償がないわけがない。
得るものがあれば――必ず支払うものもある。
交渉から二日後。
紅陽は、目に見えて変わり始めていた。
「荷が増えたねぇ」
ミレーヌが腕を組む。
「動き出したな」
ロークが頷く。
蒼月亭の裏手。
荷馬車が何台も並んでいる。
「これ全部、同盟経由か?」
レンが聞く。
「一部はな」
「全部じゃない」
「……もう来てるのか」
「早いだろ」
ロークが笑う。
「これが“流れ”ってやつだ」
一方、武器屋。
「この素材……見たことない」
カイが呟く。
「北方の合金だろうな」
ロークが言う。
「流れてくるようになったか」
「面白いな」
「腕が鳴る」
フィオは外で弓の調整をしていた。
「矢の質も上がるね」
「遠距離は任せろって感じ?」
レンが笑う。
「見えてるなら外さないよ」
軽く返す。
その時――
「……増えた」
リディアが呟く。
「何が?」
「視線だ」
「……」
ルナが小さく笑う。
「にゃるほど」
「来てるね」
その声だけ、少し低い。
「同盟だけじゃない」
「嗅ぎつけてきた連中がいる」
ロークがため息をつく。
「予想通りだ」
「流れを繋げば、寄ってくる」
「……厄介だねぇ」
ミレーヌが言う。
「増えるのは客だけでいいのに」
その時。
蒼月亭の入口に、二人組の男が現れる。
装備は整っている。
だが、雰囲気が違う。
「部屋、空いてるか?」
「あるよ」
ミレーヌが答える。
だが――
「……」
ルナがじっと見ている。
「レンファ」
「うん?」
「また変なの来た」
「どっち?」
「両方」
「……そう」
レンファが苦笑する。
「忙しくなるね」
「うん」
一拍。
「でも」
目が少しだけ細くなる。
「さっきより弱い」
「……安心していいのかな」
「いいんじゃない?」
「全部来ても、問題ないし」
軽く言う。
だが――
その言葉は冗談ではない。
その頃。
蒼月亭の奥。
交渉役の男とロークが向かい合っていた。
「動きが早いな」
ロークが言う。
「我々の仕事ですので」
「だが――」
男は続ける。
「当然、反応も早い」
「……だろうな」
「すでに、他勢力が動き始めています」
「どこだ?」
「人間側の商人連合」
「そして――」
一瞬、間を置く。
「魔族側の一部」
「……」
ロークが目を細める。
「面倒だな」
「はい」
「ですが」
男は静かに言う。
「それが“対価”です」
「……」
「価値がある場所は、放っておかれません」
蒼月亭の外。
ルミアは静かに空を見ていた。
「……来ますね」
カリナが小さく言う。
「はい」
「動きが早い」
「想定通りです」
一拍。
「……どうされますか」
ルミアは少しだけ目を閉じる。
「まだ、ここにいます」
「ですが――」
目を開く。
「そろそろ、選ぶ必要があります」
紅陽は、ただの拠点ではなくなった。
流れを持つ場所。
価値を持つ場所。
そして――
狙われる場所。
その全てを受け入れた時点で、
代償はすでに支払われ始めていた。
得たものは大きい。
だが、その分だけ――狙われる。




