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第171話「対等の席」

席に着いた時点で勝負は始まっている。

言葉の前に問われるのは――立ち位置だ。

蒼月亭の奥、普段は使わない大きめのテーブル。


そこに、紅陽の主要な面々と、交渉役が向かい合って座っていた。


「改めて」


男が口を開く。


「私は、ヴェルディア商業同盟より参りました」


「本日は、紅陽との“関係構築”のご提案です」


「堅いねぇ」


ミレーヌが肩をすくめる。


「もっと楽に話しなよ」


「では」


男はわずかに笑う。


「単刀直入に」


一拍。


「この場所は“価値がある”」


「立地、資源、戦力」


「どれも揃っている」


「……それで?」


ロークが促す。


「我々は、それを“繋ぎたい”」


「交易路を開く」


「物資を安定供給する」


「情報も提供する」


レンが腕を組む。


「その代わり?」


「優先取引」


「一定の情報共有」


「そして――」


わずかに間を置く。


「他勢力との関係調整は、我々を通していただく」


「……要するに」


ミレーヌが言う。


「首輪だね」


「そう捉える方もいます」


男は否定しない。


「ですが、守られる首輪でもある」


「……」


静かな間。


ルナが、椅子に座ったまま口を開く。


「守られる必要ある?」


軽い声。


だが、目は笑っていない。


男が視線を向ける。


「現時点では不要でしょう」


「ですが――」


「今後はわかりません」


「……へぇ」


ルナが少しだけ前に出る。


「じゃあ聞くけど」


「もし断ったら?」


一瞬の静寂。


男は淡々と答える。


「我々は、別の拠点を探す」


「そして――」


「そこを“繋ぐ”」


「結果として、紅陽は取り残される可能性がある」


「……」


レンが小さく舌打ちする。


「遠回しに潰すってことか」


「いいえ」


男は首を振る。


「選択の結果です」


「……気に入らない言い方だね」


ミレーヌが言う。


「事実ですので」


空気が少しだけ張る。


その時――


外から、短い音。


ヒュッ


全員が反応する。


「……来たな」


リディアが立ち上がる。


「交渉中にやるか」


ロークが舌打ちする。


「空気読めない連中にゃ」


ルナが立つ。


外。


蒼月亭の前。


数人の影。


「……別口か」


レンが構える。


「任せて」


フィオが前に出る。


弓を構える。


「動かないで」


次の瞬間。


ヒュンッ


矢が放たれる。


影の足元。


正確に射抜く。


「……っ!」


動きが止まる。


「一本」


二本目。


武器を弾く。


「二本」


三本目。


完全に動きを封じる。


「終わり」


その隙に――


ルナが前に出る。


「遅い」


一瞬で間合い。


「それで来たの?」


一人を崩す。


「弱い」


もう一人。


「話にならない」


最後の一人が逃げようとする。


「逃げるなら来るな」


一歩で追いつく。


だが――


止まる。


「……今回はいい」


冷たい声。


「帰って伝えろ」


「紅陽は――」


一瞬だけ目が鋭くなる。


「簡単じゃない」


影達はそのまま撤退する。


静寂。


交渉役がその様子を見ていた。


「……なるほど」


小さく呟く。


「十分に理解しました」


蒼月亭に戻る。


男は改めて座る。


「先ほどの件で、我々の認識は変わりました」


「どう変わった?」


ロークが聞く。


「“対等に話すべき相手”です」


ミレーヌが笑う。


「最初からそうだよ」


「では――」


男が姿勢を正す。


「条件を調整しましょう」


ルナが椅子に座りながら言う。


「最初からそれでいいのに」


軽い声。


だが、完全に上から。


ロークが続ける。


「こっちの条件だ」


「流れは繋げる」


「だが、主導は渡さない」


「選ぶのは常に紅陽だ」


一拍。


「それでも組むなら――歓迎だ」


静かな沈黙。


男はゆっくりと頷いた。


「……結構」


「その条件で、前向きに進めましょう」


紅陽は、選ばれる側ではなくなった。


“選ぶ側”として、席に座った。

対等は勝ち取るもの。

次は――その代償。

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