↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
169/288

第169話「商人の論理」

剣で奪う者もいれば、金で支配する者もいる。

後者の方が――気付かれにくい。

翌日。


蒼月亭の一角。


ローク、レン、リディア、ミレーヌがテーブルを囲んでいた。


「で、昨日のあいつだが」


ロークが酒を置きながら言う。


「何者なんだよ」


レンがストレートに聞く。


「敵じゃないんだろ?」


「……ああ」


ロークは少しだけ考える。


「正確には、“まだ敵じゃない”だな」


「は?」


ミレーヌが眉をひそめる。


「どういうことだい」


ロークは椅子にもたれた。


「説明するか」


一拍。


「世の中にはな、“国じゃない力”ってのがある」


「国じゃない?」


レンが聞き返す。


「王も軍も持たねえ」


「だが――」


「金と流れを握ってる連中だ」


「……商人か?」


「ただの商人じゃねえ」


ロークが笑う。


「“繋いでる側”だ」


「物を、金を、人を」


「全部な」


ミレーヌが腕を組む。


「……行商人とは違うのかい?」


「全然違う」


ロークは指でテーブルを叩く。


「行商人は“運ぶだけ”だ」


「そいつらは“流れを作る”」


「……」


「どこで売るか」


「誰に売らせるか」


「何を価値にするか」


「全部決める」


「……それ、国と変わらないんじゃない?」


「むしろ厄介だな」


ロークが答える。


「国と違って、責任を取らねえ」


「気に入らなきゃ切る」


「……」


レンがため息をつく。


「で、そいつが来たってわけか」


「そういうことだ」


「紅陽を見に」


「価値があるかどうか」


リディアが短く言う。


「……ああ」


ロークが頷く。


「昨日のは“査定”だ」


「戦う気は最初からなかった」


「必要なのは“強さの確認”だけ」


ミレーヌがぼそりと呟く。


「気分のいい話じゃないね」


「いい話じゃねえよ」


ロークが笑う。


「だが現実だ」


その時。


「それで?」


ルナが後ろから顔を出す。


「合格だったの?」


軽い口調。


だが視線は鋭い。


ロークがちらっと見る。


「どう思う?」


「来るって言ってたし」


「合格でしょ」


即答。


「……だろうな」


レンが顔をしかめる。


「じゃあどうなるんだよ」


ロークは酒を一口飲む。


「そのうち来る」


「今度は“ちゃんとしたやつ”がな」


「ちゃんと?」


「交渉役だ」


「……」


ミレーヌがため息をつく。


「めんどくさいねぇ」


「もっとめんどくさくなるぞ」


ロークが言う。


「話はだいたい三つだ」


指を立てる。


「一つ。“一緒にやろう”」


「交易を繋ぐ」


「利益は出る」


「二つ。“任せろ”」


「流れを握る」


「その代わり守る」


「三つ――」


少しだけ間を置く。


「断るなら、“別のやり方”にする」


「……それって」


レンが顔をしかめる。


「圧力か」


「そうだ」


ロークはあっさり答える。


「商売ってのはな」


「綺麗に見えて、えげつねえ」


静かに空気が重くなる。


その時。


ルナがぽつりと言う。


「来たらどうするの?」


全員の視線が向く。


ミレーヌが答える。


「まだ決めてないよ」


「話は聞く」


「でも、縛られる気はない」


「……にゃるほど」


ルナが軽く頷く。


「じゃあ、やることは一つだね」


「何だ?」


一瞬。


目が冷たくなる。


「ナメられないこと」


静かな声。


「……」


リディアが小さく頷く。


「……同意だ」


ロークが笑う。


「それが一番効く」


その頃――


外。


紅陽を見下ろす丘の上。


一人の影が立っていた。


「……なるほど」


小さく呟く。


「確かに、価値はある」


その背後に、もう一つの影。


「報告は?」


「済ませた」


「判断は?」


「……来る」


短く。


「次は、交渉だ」


紅陽は、ただの村ではなくなった。


“選ばれる場所”から――


“選ばせる場所”へ。


その境界に立っていた。

評価は終わった。

次は――条件提示。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。