第167話「見ている者」
観察は終わりではない。
評価の次に来るのは――選別だ。
偽物ポーションの流通が止まってから、数日。
紅陽は、少しだけ落ち着きを取り戻していた。
「静かになったねぇ」
ミレーヌが鍋をかき混ぜながら言う。
「流通は止まったみたいだな」
レオンが頷く。
「当たり前だ。元を潰したんだからな」
レンが肩をすくめる。
「……だが」
ロークが口を開く。
「静かすぎる」
「……」
リディアが外を見る。
「まだいるな」
「にゃ」
ルナが短く答える。
「消えてない」
「見てるだけ」
「……」
空気が少しだけ張る。
その時。
「お客さんだよー!」
セラの声が響く。
蒼月亭に、一人の男が入ってくる。
旅装。
だが――
どこか整いすぎている。
「部屋、空いてるか?」
「あるよ〜」
ミレーヌが答える。
男は軽く頷き、席に着く。
「酒と、食事を」
「はいよ」
自然なやり取り。
だが――
「……」
ルナの視線が、その男に止まる。
一瞬だけ。
表情が消える。
「……あれ」
小さく呟く。
「どうした?」
レンファが隣で聞く。
「……変」
「匂いが違う」
「……?」
「血でも、酒でもない」
「もっと……」
言葉を探す。
「“整ってる”」
「……」
レンファも視線を向ける。
確かに、違和感はある。
だが、理由は掴めない。
その時。
男がふと視線を上げる。
ルナと目が合う。
ほんの一瞬。
そして――
微笑んだ。
「……」
ルナの目が、わずかに細くなる。
「……あれ、やだ」
「何が?」
「強い」
小さく。
「でも、隠してる」
レンファが苦笑する。
「また変なの来たね」
「うん」
一拍。
「でも、今のは――」
ほんの少しだけ声が低くなる。
「逃がさない方がいいやつ」
「……物騒だな」
「大丈夫」
すぐに笑う。
「まだ何もしてないし」
その頃。
店の奥。
ロークとリディアが静かに話していた。
「気付いたか」
「ああ」
「流れが変わった」
「……本命か?」
「可能性は高い」
「どうする?」
ロークは少しだけ考える。
「何もしない」
「……?」
「向こうは“見に来てる”」
「なら、見せてやる」
「……」
リディアが頷く。
「了解」
一方――
ルミアは静かにその男を見ていた。
「……来ましたね」
カリナが小さく言う。
「はい」
「予想通りです」
「……どうされますか」
「まだ、何もしません」
「……」
「ただし」
その目が、ほんの一瞬だけ鋭くなる。
「次は、動きます」
紅陽に向けられていた視線は、
ついに姿を現した。
観察する者。
試す者。
そして――選ぶ者。
その全てが、今ここに集まりつつある。
静かな日常の中で、
確実に“次の段階”が始まっていた。
観察は終わった。
次は――選別。




