第165話「喰らいつく影」
餌に集まるのは、獲物だけではない。
その裏には――必ず“狩る側”もいる。
夕刻。
紅陽の外れ。
「さっきのやつ、見失うなよ」
レンが低く言う。
「ああ」
リディアは短く答える。
「距離は保て」
ロークが続ける。
三人は、一定の間隔を取りながら進んでいた。
視線の先には――
フードの男。
ゆっくりと歩いている。
「……気付いてるな」
レンが小さく呟く。
「だろうな」
ロークが笑う。
「だが、それでいい」
「どういう意味だ?」
「こっちに見せてる」
「つまり――」
「誘ってる」
「……」
リディアの視線が鋭くなる。
その時。
男がふっと脇道に入る。
「来たな」
三人は迷わず追う。
路地の先。
行き止まり。
「……」
男がゆっくり振り返る。
「随分と堂々としてるな」
レンが笑う。
「逃げる気はないのか?」
男は何も言わない。
ただ――
「……遅い」
低い声。
次の瞬間。
消えた。
「っ!?」
「上だ!」
リディアが反応する。
屋根の上。
別の影が二つ。
「増えたか」
ロークが舌打ちする。
「最初から一人じゃねえ」
影の一つが動く。
一直線。
「来るぞ!」
リディアが迎え撃つ。
「甘い」
刃を弾く。
レンが横から入る。
「速いな!」
だが――
「雑だ」
低い声。
次の瞬間。
影が吹き飛ぶ。
「……は?」
「何だ今の」
視線の先。
そこにいたのは――
ルナ。
いつの間にか、立っていた。
「……三人?」
冷たい目。
「その程度で来たの?」
影が一瞬止まる。
「……」
ルナが一歩踏み出す。
「見えてる」
「全部」
影が一斉に動く。
だが――
「遅すぎる」
一閃。
一人が崩れる。
「一人」
二人目。
「二人」
三人目が距離を取る。
「……逃げる?」
わずかに首を傾ける。
「判断だけはいい」
だが、追わない。
「……帰れ」
静かな声。
「次はない」
その一言で、空気が凍る。
残った影は、迷わず消えた。
静寂。
「……何だよ今の」
レンが呟く。
「……」
リディアも無言。
ロークが小さく笑う。
「頼もしいな」
その時。
ルナが振り返る。
表情が戻る。
「終わったにゃ〜」
軽い声。
「レンファに怒られる前に帰ろ〜」
「……いや、お前」
レンが突っ込む。
「今の何だよ」
「何って?」
「普通にやっただけだよ〜」
「普通じゃねえよ」
「えへへ」
そのまま歩き出す。
紅陽へ。
その背中を見ながら――
リディアが小さく言う。
「……加減しているな」
「ああ」
ロークが頷く。
「本気じゃねえ」
レンが苦笑する。
「恐ろしいな」
一方、その頃――
蒼月亭。
ルミアは静かに座っていた。
「……終わりましたね」
カリナが小さく言う。
「ええ」
「ですが――」
ルミアは目を細める。
「一つではありません」
「……はい」
「次は、別の動きが来ます」
紅陽に向けられた視線は、一つではない。
今、潰したのは――その一部。
だが、流れは止まらない。
むしろ――
加速する。
一つは退けた。
だが、本命はまだ動いていない。




